#人事も人間です

【人事担当者匿名座談会】#人事も人間です ―― 採用の最前線で起きている「静かなる疲弊」

#座談会#担当者の本音
【人事担当者匿名座談会】#人事も人間です ―― 採用の最前線で起きている「静かなる疲弊」
ファシリテーター:PIKO(採用ハック ディレクター)
テーマ:2026年の採用環境、Z世代対応、人事の葛藤

はじめに:AIと人間が交錯する2026年の採用現場

採用の話になると、どうしても「企業が選ぶ側」「学生が選ばれる側」、あるいはその逆の「売り手市場におけるパワーバランス」という構図ばかりが語られがちです。

しかし、2026年現在。
AIによる自動エントリーやスカウトが当たり前になり、就職活動のスピード感は劇的に加速しています。その荒波の間に立つ人事担当者は、ほとんどの場合、企業側(経営・現場)と求職者側、そしてテクノロジーの狭間で、どちらの味方でもいられない孤独を抱えています。

今回は、2026年の採用環境を背景に、人事担当者たちが日々飲み込んでいる迷いや違和感を、匿名の座談会という形で発信していきます。

ここで書くのは「何が正解で何が間違いか」ではありません。
ただ、「人事もまた、感情を持った人間である」という前提から、今の採用を見つめ直してみたいと思います。

参加者プロフィール

  • Aさん:首都圏本社のメーカー(素材・部品系)で新卒採用を担当。30代前半。
  • Bさん:大手インフラ系企業の人事。新卒・若手採用と育成、制度設計に関わる。
  • Cさん:金融系グループ会社で採用広報・面接設計・採用ツール運用を担当。

「採用、うまくいってますか?」という問いの空虚さ

PIKO

最初に、少し抽象的な質問をさせてください。今の採用、「うまくいっている」という実感はありますか?

Aさん(メーカー)

……非常に難しい質問ですね。数字だけ見れば、悪くはないんです。エントリー数もKPIは超えているし、オンライン説明会も満席になる。表向きのレポートは「順調」です。

Cさん(金融)

でも、「うまくいっているか」と心に問われると、即答はできないですよね。

Bさん(インフラ)

私も同じです。「人が集まらない」という悩みより、「決まらない」「熱量が伝わらない」という感覚の方が近い。AIがマッチングした候補者は確かに要件を満たしているけれど、最後の最後で何かが噛み合わない。

PIKO

母集団という「数字」はあるけれど、承諾という「結果」まで届かない、あるいは届いても手応えがない?

Aさん

そうですね。AIが自動生成したような綺麗なES(エントリーシート)が増えて、誰が本当の志望者なのか見えにくくなっています。でも社内からは、「数字は良いのに、なぜ内定承諾率が下がるの?」「何が悪いの?」と詰められる。

Cさん

そこが一番しんどいですね。「歩留まりが悪いのは人事のフォロー不足」と言われますが、学生側も複数のAIエージェントを使って何十社も並行しているので、一社の重みが数年前とは全く違う。

現場と経営の「板挟み」は、より複雑に

PIKO

その「しんどさ」の根源はどこにあるんでしょう。

Bさん

やはり、現場と経営、両方から言われることが矛盾している点です。

Aさん

現場からは「即戦力が欲しい」「配属後すぐに動けるタフな子が欲しい」と言われます。
一方で経営からは「イノベーションを起こせる異能人材を」「ダイバーシティを意識した採用を」と言われる。

Cさん

分かります(笑)。「従順で使いやすくて、でも革新的でリーダーシップがある人材」なんて、スーパーマンを探しているようなものです。どちらも正しいから、否定できないのが辛い。

Bさん

人事です。現場が納得するスキルを持ちつつ、経営が喜ぶポテンシャルを持った人材を探す。そんなの、砂漠でダイヤモンドを探すようなものです。

Cさん

採用って、成功は「現場の育成のおかげ」や「経営の魅力」として語られ、失敗は「人事の目利きの悪さ」として処理される仕事だなと、つくづく思います。

「Z世代に刺さる採用を」と言われるけれど

PIKO

ここ数年、「Z世代」「α世代」への対応は避けて通れません。特に2026年は、デジタルネイティブの感性がより鋭くなっています。

Cさん

避けられないですね。「もっと刺さるショート動画を」「TikTokでバズるコンテンツを」って、役員から軽く言われます。

Aさん

でも、企業のスピード感が全く合わない。

Bさん

学生は「即レス・即反応」が当たり前の文化。疑問があればチャットボットで瞬時に解決したい。
でも社内は、SNS用の文章一つ出すのに、広報チェック、法務チェック、部門長確認……と、稟議に1週間かかる。

Cさん

その1週間の間に、学生の気持ちは他社へ移っています。「御社のレスポンスの遅さに、企業の体質を感じました」という辞退メールをもらったこともあります。

ドタキャンと無言辞退が削っていくもの

PIKO

最近よく聞くのが、ドタキャンや連絡なし辞退です。

Aさん

増えています。最終面接の当日に来ない、なんてことももう珍しくありません。

Cさん

正直、それに慣れて「またか」と淡々と処理してしまっている自分がいて、それが一番嫌です。感情を殺さないとやっていられない。

Bさん

学生側が忙しいのも分かるんです。彼らも選ばれるプレッシャーの中にいる。
でも、こちらは役員のスケジュールを空け、会議室を抑え、資料を準備して待っている。その「準備」にかけた熱量が、プツンと切られる瞬間。

PIKO

一番削られるのは、プライドでしょうか、それとも……。

Cさん

「大事にされていない感じ」ですかね。こちらが一人の人間として向き合おうとしていた分、記号のように処理されたと感じてしまう。

「人事ってホワイトですよね?」と言われる瞬間

PIKO

社内外から誤解されていると感じることはありますか?

Cさん

一番傷つくのは、他部署の同期からの「人事は涼しい部屋で学生と喋ってるだけでいいよね」「ホワイトだよね」という言葉です。(全員、深く頷く)

Aさん

実態は真逆です。ピーク時の一日は、朝から説明会、面接、合間に面談、夕方から社内報告資料作成、夜は内定者の不安解消のための電話フォロー。

Bさん

特に3月〜6月は、トイレに行く暇もない。家に帰っても、学生からの緊急の連絡が気になってスマホを手放せない。仕事と家庭の両立が一気に崩壊する時期です。

Cさん

それに加えて、常に「会社の顔」として笑顔でいなければならない感情労働の割合が極めて高い。自分の機嫌が悪くても、絶対に表に出せない。

嘘をつきたいわけじゃない、でも……

PIKO

学生からは、人事は「本音を隠している」「良いことしか言わない」と思われがちです。

Cさん

嘘をつきたいわけじゃないんです。本当に。

Aさん

ただ、聞かれなかったネガティブな情報を、全部自分から積極的に言う勇気がないだけ。言えば離れていくのが分かるから。

Bさん

「残業はありますか?」と聞かれたら、「平均は◯時間だけど、繁忙期は……」と正直に答えます。でも、「ぶっちゃけ、人間関係ドロドロですか?」とは聞かれないし、答えられない。

PIKO

誠実でありたい自分と、採用目標を達成しなければならない自分。

Cさん

そのトレードオフの間で、ずっと揺れている感じです。「この子にとって、本当にうちの会社が幸せなんだろうか」と迷いながら、それでも内定通知書を渡す。その葛藤は、AIには決して理解できない部分でしょうね。

#人事も人間です

PIKO

最後に、このテーマについて聞かせてください。「#人事も人間です」。
2026年の今、この言葉にどんな意味を感じますか?

Aさん

「完璧じゃなくていい」ということ。
会社の代表として完璧を演じようとしすぎて、自分が壊れてしまう人事が多い。弱音を吐いてもいいんだと、自分に言い聞かせたい。

Bさん

「一人で背負いすぎなくていい」ということ。
採用は経営課題であり、全社員の責任。人事だけがサンドバッグになる必要はないはずです。

Cさん

「迷いながら判断していい」ということ。
私たちは神様じゃないから、人の将来も、会社の未来も完全には予測できない。それでも、目の前の学生と真剣に向き合った事実は嘘じゃない。そう信じたいです。

PIKO

採用は、アルゴリズムによる自動マッチングではない。感情と感情のぶつかり合いですね。

Aさん

はい。だからこそ辛いし、だからこそ、最高のマッチングができた時に泣けるほど嬉しいんだと思います。人事も、ちゃんと悩んで、泣いて、笑っている人間なんです。

編集後記

この座談会で語られたのは、キラキラした採用成功談でも、誰かを吊し上げるための失敗談でもありませんでした。

そこに感じたのは、テクノロジーが進化し、合理化が進む2026年の構造の中で、それでも「人」という不確かな存在に向き合い続け、板挟みになりながらも前に進もうとする人たちの、生々しい呼吸音だった気がします。

採用がうまくいかないとき、私たちはつい「誰が悪いのか」「どのツールが悪いのか」を探してしまいます。

けれど、「人事も人間である」という前提に立ち返らなければ、学生と企業の不幸なすれ違いは、形を変えて何度でも繰り返されてしまうのではないでしょうか。

画面の向こうにいる学生が人間であるように、合否を通知するメールの送信ボタンを押す指先にも、確かな体温と葛藤があります。

この記事が、どこかで採用に関わる誰かにとって、「この迷いは、自分だけじゃなかったんだ」と、張り詰めた糸を少しだけ緩めるきっかけになれば幸いです。

※本記事は、情報保護の観点から、内容は編集・再構成しています。