『ネタ切れしない』インターンシップ企画
「インターンシップの企画がマンネリ化してる。『何か面白いことやって』と上司は言うけど、現場は協力してくれないし、学生に任せられる業務も限られてる。もうネタ切れです。」
その「マンネリ」や「ネタ切れ」は、インターンシップを「実際の業務を切り出してやってもらうこと」と固く考えすぎていることが原因かもしれません。
その悩みは、多くの採用担当者が抱える構造的な問題です。しかし、学生がインターンシップに求めているのは、必ずしも「実務経験」そのものではありません。彼らが本当に得たいのは、「その会社で働くことの解像度」と「自分の現在地を知るためのフィードバック」です。
ステップ0:まず、あなたのインターンシップを診断しよう
「とりあえず開催している」状態に陥っていないか、まずは自社のプログラムを客観的に診断してみましょう。
- □ 会社説明会・延長戦型:
プログラムの大半が会社や事業に関する座学で、学生が主体的に頭と手を動かす時間が極端に少ない。 - □ おしごと体験ごっこ型:
誰でもできる簡単なデータ入力や資料のコピーなど、責任や思考を伴わない「作業」をさせて、仕事をした気にさせている。 - □ 現場・丸投げ放置型:
現場の部署に学生を預けるものの、明確な育成プログラムがなく、忙しい社員の隣で手持ち無沙汰な時間を過ごさせてしまっている。 - □ キラキラ見せすぎ型:
仕事の面白い部分や成功事例だけを見せ、泥臭い部分や失敗談を隠すことで、逆に入社後のギャップを生む原因を作っている。 - □ やりっぱなし無評価型:
プログラム終了後、学生の成果物やプロセスに対する具体的なフィードバックがなく、学生が「何を学び、どう評価されたか」が分からないまま終わる。
これらは全て、「学生をゲスト扱いしている」ことから生じます。この姿勢を、「未来の仲間候補」として向き合う姿勢に変えることが、全ての始まりです。
ステップ1:思想をアップデートする。「業務の提供」から「思考の追体験」へ
現場に協力を仰ぐ際、「学生に何か業務をください」とお願いしていませんか?これでは忙しい現場は協力してくれません。依頼内容をこう変えてみましょう。
「去年、一番苦労して乗り越えたプロジェクトの話を、1時間だけ学生に聞かせてくれませんか?」
現場の負担は「業務の切り出しと監督」から「過去の経験を語ること」に変わり、劇的に軽くなります。学生が得るのは「作業経験」ではなく、プロフェッショナルが「どのように考え、悩み、決断したか」という思考プロセスの追体験です。これこそが、学生にとって最も価値のある学びとなります。
- ゴールを「就業体験」から「成長実感」へ再設定する(WHY)
- NG:「弊社の仕事を体験してもらう」
- OK:「参加前には見えなかった自身の強み・弱みや、働くことの面白さ・難しさに気づいてもらう」
- → 学生が「このインターンを通じて、自分は少し成長できた」と感じられるかどうかが、満足度の分水嶺です。
- 現場の役割を「監督者」から「出題者・語り部」へ転換する(HOW)
- NG:「学生のOJTをお願いします」
- OK:「学生に挑戦させる『リアルな課題』をください。そして最後に『答え合わせ』として、皆さんがどう解決したか教えてください」
- → 現場の協力を「最小限の時間で、最大限の効果」を引き出す形で設計します。
ステップ2:現場も学生も満足する具体的な打ち手
思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「ネタ切れ」を「無限の企画」に変える4つの打ち手をご紹介します。
1. 「過去事例・追体験型」ワークショップ
・学生はチームでその課題への解決策を議論・発表。
・最後に、課題提供者である社員本人が「自分たちは、こう考え、こう解決した」という”答え合わせ”を行う。
・現場社員の協力満足度
・選考時の志望動機の具体性
2. 「課題解決・未来提案型」プロジェクト
・最終日に役員や事業責任者に向けてプレゼンする機会を設け、本気のフィードバックをもらう。
・学生からの提案の質
・役員/社員の評価と、その後の選考評価の相関性
3. 「社員密着・ドキュメンタリー型」プログラム
・学生の最終的なアウトプットは「〇〇さんの一日」というタイトルの紹介プレゼンや動画作成。
・「観察」を「言語化・構造化する」という知的作業に変える。
・企業文化への理解度・共感度
・入社後のギャップの低減
4. 「相互評価・フィードバック」の仕組み化
・学生からも「社員の〇〇さんのフィードバックが的確だった」など、社員への評価をもらう。
・優秀な学生には、その場で次の特別な選考ステップをオファーする。
・フィードバック満足度
・採用のマッチング精度向上
成功のための深掘り解説
打ち手1:「過去事例・追体験型」ワークショップ
これが「現場協力が得られない」「任せる業務がない」という問題を一発で解決する最強の打ち手です。現場社員にお願いするのは、過去の武勇伝や失敗談を語ってもらうことだけ。彼らにとっても、自身の経験を棚卸しする良い機会になります。学生は、リアルな制約の中でプロが下した「生々しい判断」に触れることで、仕事の面白さと難しさを同時に学びます。この「答え合わせ」の時間は、どんな会社説明よりも価値があります。
打ち手2:「課題解決・未来提案型」プロジェクト
これは、学生を「お客様」ではなく「未来の仲間」として扱い、会社の未来を一緒に考えてもらうプログラムです。学生の斬新な視点や、採用担当者では思いつかないアイデアは、経営層にとって刺激的なインプットになります。学生も「自分の意見が、会社の未来を左右するかもしれない」という当事者意識を持つことで、目の色が変わります。重要なのは、最終プレゼンでの役員や社員からの「本気のフィードバック」です。このやり取りを通じて、学生は会社の知的レベルや文化を肌で感じ取ります。
打ち手3:「社員密着・ドキュメンタリー型」プログラム
「現場に学生を放置してしまう」という失敗を防ぐための、秀逸なプログラムです。学生に「観察して、まとめて、発表する」という明確なミッションを与えることで、彼らは受け身の姿勢から、能動的に情報を取得し、構造化する姿勢へと変わります。「〇〇さんは、なぜあの場面で△△という判断をしたのだろう?」と、社員の思考を読み解こうとします。このプロセスは、コンサルタントの初期トレーニングにも近く、学生のポテンシャルを測る絶好の機会にもなります。
打ち手4:「相互評価・フィードバック」の仕組み化
やりっぱなしのインターンは、学生の記憶に残りません。最後に「あなたは、ここが素晴らしかった。でも、プロとして見ると、ここはもっと伸ばせる」という真摯なフィードバックを個人に伝えること。この「お土産」こそが、学生が最も持ち帰りたいものであり、「自分のことを、こんなに真剣に見てくれた」という強烈な動機形成(エンゲージメント)に繋がります。優秀な学生を惹きつけ、逃さないためのクロージングとして、絶対に欠かせないプロセスです。
明日からできることリスト
- ・社員に「去年一番しんどかったプロジェクト」を語ってもらう時間を1セッション確保する
- ・スタッフから過去のプロジェクトの課題ケースをヒアリングしてワークショップ草案作成
- ・学生へのフィードバックフォーマット(Good & More形式)を作っておく
- ・インスタやWebで「社員密着1日密着レポート」企画の見せ方を検討開始
結論:目指すべきは「最高の業務体験」ではなく、「最高の成長実感」
インターンシップの企画に、もうネタ切れで悩む必要はありません。
貴社の会議室で交わされた過去の議論、乗り越えた困難なプロジェクト、そして社員一人ひとりの頭の中にある知見、そのすべてが学生にとって最高の学びの教材になります。
学生に提供すべきは、必ずしも「実際の業務」ではありません。
プロフェッショナルの思考プロセスに触れ、自分の頭で考え抜き、本気のフィードバックをもらうことで得られる「昨日までの自分とは、視座が一段上がった」という強烈な成長実感。
それこそが、どんな企業にも真似できない、貴社だけの最高のインターンシップ体験になるはずです。