『内定者研修の不満』を乗り越える“競争から共創へ”の場作り術
「内定者研修でグループワークをさせたら、『なぜ同期と優劣をつけられなければならないのか』と不満が出た。協調性を育むための研修が、不信感を生んでどうする…」
良かれと思って企画した「友情を育むキャンプファイヤー」が、意図せずして、内定者同士が再びライバルとして睨み合う「疑心暗鬼のサバイバルゲーム」になってしまった。そのやるせなさと、学生の気持ちを汲み取れなかったことへの自己嫌悪。
この問題の本質は、学生たちがワガママなのではなく、熾烈な選考という「競争」の季節を終え、ようやく手にした「仲間」という関係性を会社側から再び「競争」の論理で脅かされることへの、当然の拒絶反応であるという点です。
その「評価」という名の呪縛から内定者と採用担当者自身を解放し、研修を「能力を測る場」から「関係を築く場」へと再定義することで、入社後の最高のスタートダッシュを全員で切るための、新しい場作りの技術をご提案します。
ステップ0:まず、なぜあなたの”良かれ”は”お節介”になるのか?を診断しよう
良かれと思って企画した研修が、学生の不満を招いてしまう背景には、いくつかの設計上の欠陥があります。
- □ 選考継続・疑心暗鬼型:
研修でのパフォーマンスが、その後の配属や評価に影響するのではないか、という疑念を学生に抱かせている。「これは、まだ選考の一環なのでは?」と思われている。 - □ 優劣可視化・強制型:
グループワークの最後に、チームごと、あるいは個人ごとに順位付けや優劣のフィードバックを行い、内定者間に不必要な序列意識を生んでしまっている。 - □ 目的と手段・不一致型:
口では「協調性」を謳いながら、実際のアクティビティは、チーム同士を競わせるコンペティション形式になっている。 - □ 「成長」の“お仕着せ”型:
会社側が「よかれ」と思うスキルアップ研修(例:ロジカルシンキング)を一方的に提供し、内定者が本当に抱えている不安(例:同期と仲良くなれるか)に応えられていない。 - □ 心理的安全性・欠如型:
失敗したり、素の自分を見せたりすることが許されないような、緊張感の高い雰囲気を作ってしまっている。
これらは全て、内定者を「未来の仲間」としてではなく、依然として「評価対象の候補者」として扱っていることが原因です。
ステップ1:思想をアップデートする。「評価者」の仮面を外し、「仲間」になる
内定者研修の第一目的を、「能力開発」や「評価」から、以下の2つに再設定します。
- 不安の解消: 「この会社で、本当にやっていけるだろうか」という、内定者が抱える漠然とした不安を、具体的な情報と人間関係の構築によって解消する。
- 横の繋がりの構築: 「同期」という、社会人人生における最も貴重な財産となる、心理的なセーフティネットを築く手助けをする。
この思想に立てば、グループワークで優劣をつけるという行為が、いかにこの目的に反するかは、火を見るより明らかです。採用担当者は、彼らを評価するのではなく、彼らが最高のチームになるための、最初の触媒となるのです。
ステップ2:“不信”を”信頼”に変える、新しい研修の形
思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「サバイバルゲーム」を「最高のチームビルディング」に変える4つの打ち手をご紹介します。
1. 「評価ゼロ」の原則を最初に宣言する
・配属や昇進に影響せず、仲間を知る場であると伝える
・内定者同士の自発的コミュニケーション
・内定辞退率低下
2. 「競争」ではなく「共創」を生む課題設定
・市場調査、企画、広報など役割分担で協力し「新規事業プラン」を完成させる
・情報共有・協力の頻度
・一体感の醸成
3. 「内定者の不安」を起点にしたコンテンツ設計
・回答に基づき不安解消ワークショップを企画(例:マナー、PCスキル、人間関係)
・不安解消度(事後アンケート)
・主体的な参加姿勢
4. 「アウトプット」よりも「プロセス」を称賛する文化の醸成
・例:仲間をフォローする姿勢を称賛し、企業バリューと紐付ける
・多様なリーダーシップの提示
・企業文化の自然浸透
成功のための深掘り解説
打ち手1:「評価ゼロ」の原則を最初に宣言する
これが、研修全体の空気感を決定づける、最も重要な宣言です。この一言があるだけで、学生は「評価されるかもしれない」という見えない恐怖から解放され、安心して自分をさらけ出し、他者を受け入れる準備ができます。採用担当者が最初にこの“安全宣言”を行うことが、信頼関係の土台となります。
打ち手2:「競争」ではなく「共創」を生む課題設定
ライバルチームの存在は、時に健全な競争心を生みますが、まだ関係性ができていない内定者同士の間では、過度な敵対心や疑心暗鬼を生むだけです。「敵は、隣のチームではない。私たちが共に挑む、この大きな課題だ」という共通の目標を設定すること。ジグソーパズルのピースを、各チームが分担して作り、最後に全員で一つの絵を完成させるような、そんな一体感をデザインするのです。
打ち手3:「内定者の“不安”」を起点にしたコンテンツ設計
会社が「成長のために必要だ」と考えるスキルと、内定者が「入社前に解消しておきたい」と感じる不安は、必ずしも一致しません。一方的な“お仕着せ”の研修ではなく、彼らのリアルな声からコンテンツを作ることで、「この会社は、私たちのことを本当に考えてくれている」という、深いエンゲージメントが生まれます。研修は、最高の不安解消カウンセリングの機会なのです。
打ち手4:「アウトプット」よりも「プロセス」を称賛する文化の醸成
「〇〇チームの発表が一番でした」というフィードバックは、勝者と敗者を生み、序列を作ります。そうではなく、結果に至るまでの「プロセス」の中に見られた、その人らしい輝きに光を当てること。派手に議論をリードするだけがリーダーシップではありません。黙々と議論を可視化する書記も、傾聴でチームの心理的安全性を高めるメンバーも、全員が等しくチームに貢献しています。その多様な貢献の形を、会社の言葉で「称賛」することで、学生は安心して自分の強みを発揮できるようになります。
明日からできることリスト
- ・研修の冒頭で「この研修では評価は一切行いません」と明言する宣言文を準備する
- ・研修プログラムを見直し、チーム対抗戦を抜いて、共通ゴール型の課題(例:新規事業プラン作成)に差し替える案を作成
- ・研修前に内定者アンケートで「今一番不安に思っていること」を収集し、研修内容に反映させる機会を設定
- ・研修中に見られた努力や協力行動を具体的に称賛するスクリプトを用意する(例:「発表内容より、どのように準備に向き合ったかが素晴らしいです」など)
- ・研修後のアンケートに「プロセスで最も印象に残った瞬間は?」という問いを入れて、プロセス重視の文化を育むきっかけを得る
「優秀な内定者」の選別ではなく、「最高の同期」が生まれる瞬間の演出
採用担当者は、内定者研修の場において、もはや評価者や教官ではありません。
これから長い社会人人生を共に歩む「同期」という、かけがえのない関係性が生まれる、その最初の化学反応をデザインし、促進する、コミュニティ・ビルダーです。
「なぜ同期と優劣を…」という学生の声は、批判ではありません。
それは、「私たちは、もう戦いたくない。早く仲間になりたいんです」という、切実で、前向きな心の叫びなのです。
その声に応え、競争の舞台を、共創の舞台へと変えること。
その瞬間に立ち会うことこそが、採用担当者という仕事の、最も創造的で、感動的な役割の一つと言えるでしょう。