打ち手辞典

『勤務地の壁』を突破する“逆指名”オンラインイベント設計

「オンライン説明会なら、全国の学生にアプローチできると期待したのに…。結局は『勤務地が〇〇(地方)なんですね…』の一言で、画面の向こうの熱が冷めていくのが分かる。この“勤務地の壁”は、想像以上に高い。」

デジタルの力で、地理的な制約を乗り越えられるはずだった。しかし、最後の最後で立ちはだかる、あまりにも高く、分厚い「勤務地」という名の現実の壁。その前で、なすすべなく学生が離脱していくのを見るのは、本当に心が折れますよね。

この問題の本質は、オンライン説明会という手法そのものではなく、その「使い方」にあります。私たちは、無意識のうちに「勤務地」という、学生にとって最も重要な判断材料の一つを、“後出し”にしてしまっているのです。

その「後出しじゃんけん」という不誠実な戦い方をやめ、最初から「勤務地」というカードを堂々と提示し、それでもなお「話を聞きたい」と願う、本当に縁のある学生だけを惹きつけるための、新しいオンラインイベントの設計術をご提案します。


ステップ0:まず、なぜあなたの説明会は”がっかり”させてしまうのか?を診断しよう

期待して参加した学生が、勤務地を知った瞬間に興味を失ってしまう。その「がっかり」の背景には、いくつかの設計上の問題があります。

  • □ ターゲティング不在・マス広告型:
    「全国の学生、誰でも歓迎!」といった、ターゲットを絞らない集客を行っているため、そもそも地方勤務に関心のない層を大量に集めてしまっている。
  • □ 「勤務地」の後出し・サプライズ型:
    説明会の終盤まで、勤務地という重要な情報を意図的に隠している、あるいは曖昧にしている。学生は「騙された」という不信感を抱く。
  • □ 都市部への幻想・未払拭型:
    オンラインという形式が、「もしかしたら、フルリモート?」「東京支社勤務?」といった、学生の淡い期待を助長してしまっている。
  • □ ”地方”の価値・未翻訳型:
    「地方で働くこと」のデメリット(不便さなど)を、上回るだけのメリット(豊かな自然、ワークライフバランス、低い生活コストなど)を、具体的な魅力として伝えられていない。
  • □ イベントの画一化・無個性型:
    説明会の内容が、どの企業でも話しているような事業内容や理念に終始し、「なぜ、この会社で、この土地でなければならないのか」という、独自の物語が欠けている。

これらは全て、学生の「暮らし」への視点に、企業側が寄り添えていないことが原因です。


ステップ1:思想をアップデートする。「どこでもドア」という幻想を捨て、”ここ”でしか得られない価値を語る

オンライン説明会は、どこでもドアではありません。それは、「この指とまれ」という指名への、応募ボタンです。

思想を、「不特定多数を“集める”」から、「特定の価値観を持つ人に“見つけてもらう”」へと転換します。

【イベントの考え方】

これは、万人向けではない。そして、それこそが私たちの強みだ

最初から「私たちの勤務地は〇〇です。この土地での暮らしに、少しでも興味のある方だけ、お集まりください」と、勇気を持って“お断り”を入れること。これにより、参加者の数は減るかもしれません。しかし、その先に待っているのは、圧倒的に質の高い、本気の対話です。


ステップ2:“壁”を”魅力のフック”に変える、具体的な打ち手

思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「がっかり」を「ますます興味が湧いた!」に変える4つの打ち手をご紹介します。

1. イベントタイトルと集客コピーの「勤務地・前面化」戦略

難易度 コスト 期間 次回の説明会から
目的
説明会の入口段階で勤務地の期待値ズレをなくす
具体策
・タイトルで勤務地×価値を前面化(例:【〇〇で、世界と繋がる】)。
・集客文でU/Iターン志向に刺さるコピーに絞り込む。
主要KPI
・ターゲット層比率
・説明会離脱率
・選考移行率

2. 「Uターン・Iターン希望者」限定イベントの開催

難易度 コスト 期間 次回の採用フローから
目的
同じ価値観を持つ学生が集まる熱量の高いコミュニティ創出
具体策
・出身/在住/興味で限定したイベントを企画。
・移住者の失敗談やローカル情報などクローズドな実話を共有。
主要KPI
・参加者満足度・連帯感
・選考移行率
・内定承諾率

3. 説明会を「会社説明」から「暮らし説明」へ転換

難易度 コスト 中(動画制作費等) 期間 次回の説明会から
目的
ON/OFF両面で人生全体の豊かさを提案
具体策
・冒頭15分は若手の一日Vlogを放映。
・通勤・家賃・週末の過ごし方など暮らしの事実を映像で提示。
主要KPI
・エンゲージメント(表情/質問の変化)
・「暮らし」系質問数
・自社独自価値の伝達度

4. 「オンライン×リアル」を組み合わせた選考体験

難易度 コスト 高(交通・宿泊費) 期間 最終選考フェーズ
目的
百聞は一見に如かずのリアル体験で意思決定を後押し
具体策
・最終候補者を現地招待(費用全額負担)。
・オフィス見学+先輩との食事+街案内ツアーを同日に実施。
主要KPI
・最終での辞退率低下
・内定承諾率向上
・入社後ギャップ起因の早期離職防止

成功のための深掘り解説

打ち手1:イベントタイトルと集客コピーの「勤務地・前面化」戦略

これが、採用のミスマッチを入り口で防ぐ、最もシンプルで強力なフィルターです。「勤務地:〇〇」と最後に小さく書くのではなく、タイトルで堂々と宣言すること。これにより、参加者の母数は減るかもしれません。しかし、それは「そもそも、あなたの会社に合わない人」が来なくなっただけであり、採用担当者にとっても、学生にとっても、お互いの無駄な時間を削減する、最高の効率化なのです。

打ち手2:「Uターン・Iターン希望者」限定イベントの開催

不特定多数の前では話しにくい、地元トークや、移住への不安といった“本音”も、同じ価値観を持つ仲間が集まる場であれば、安心して話すことができます。このイベントは、単なる説明会ではなく、未来の同期や、同じ志を持つ仲間と出会う、貴重なコミュニティとしての価値を持ちます。この「仲間がいる」という感覚が、地方就職への最後のひと押しになります。

打ち手3:説明会のコンテンツを「会社説明」から「暮らし説明」へ転換

学生の頭の中は、「どんな仕事か?」と「どんな暮らしになるか?」という、二つの問いで満たされています。多くの企業が前者しか語らない中で、あなたの会社が、後者の「暮らし」の解像度を、圧倒的にリアルに、そして魅力的に語ることができれば、それは強烈な差別化になります。仕事のやりがいと、人間らしい豊かな暮らし。その両方が手に入るという物語を、具体的な映像と共に提示するのです。

打ち手4:「オンライン」と「リアル」を組み合わせた選考体験

オンラインで効率的に母集団を形成し、最後の意思決定の段階では、リアルな体験という、最強のクロージングを用意する。このハイブリッドなアプローチこそが、現代の地方企業採用の王道です。実際にその土地の空気を吸い、人と話し、街の雰囲気を感じるという体験に勝るものはありません。これは、「私たちは、あなたに本気です」という、会社の覚悟を示す、最高の投資でもあります。

明日からできることリスト

  • ・説明会の案内文(タイトル+コピー)を見直し、「勤務地」が最初にわかる表現を一つ追加/修正する
    例:“勤務地:〇〇/都会に疲れた人へ”など、勤務地と対象層をコピーに含める。
  • ・次回説明会の参加者アンケートに、「現在の居住地」「UI/Uターンを考えているか」などを必ず聞く項目を入れる
    → これにより、どの層に響いているか/響いていないかが可視化できる。
  • ・「暮らしのVlog」または社員の所在する地域の生活風景を撮った短い映像素材を1本準備する
    → 説明会で使えるよう、住環境・趣味スポット・休日の過ごし方などを盛り込む。
  • ・地方勤務希望者限定のオンラインイベントを企画する
    → 出身地や地方移住に関心ある学生を対象に、住む地域の実際の暮らし・移住のコツ・失敗談などを共有するセッションを設ける。
  • ・最終候補者に対してリアルでの体験機会を提供できるよう、交通・宿泊費を会社が負担する小さな現地見学ツアー案を作成する
    → 地方の場合、学生が「現地に行く価値がある」と思える体験を作ることで、勤務地の壁を超える動機付けになる。

「全国民に愛される」ことではなく、「特定の誰かの“故郷”になる」こと

採用担当者は、自社の勤務地を、申し訳なさそうに語る必要は、もうありません。

あなたは、その土地が持つ、まだ誰も気づいていない魅力を発掘し、新しい生き方を求める若者に、その価値を届ける、地域のブランド・アンバサダーなのです。

オンライン説明会は、勤務地という“壁”を無力化する魔法の杖ではありません。

それは、その“壁”の内側にある、豊かな世界に心から惹かれる人々を、広大な世界中から見つけ出すための、最高のサーチライトなのです。

その光を、自信と誇りを持って、一点に集中させること。

その先にこそ、「勤務地が〇〇だから、この会社がいい」と、目を輝かせて語る、未来の仲間との出会いが待っているはずです。