『知名度の壁』を突破する“発見”されるためのナラティブ戦略
「まずは会社を知ってもらうこと自体が難しい。知名度の高い大手に、一瞬で埋もれてしまう…」
まるで、人気アーティストがヘッドライナーを務める巨大な音楽フェスで、片隅の小さなステージに立つ、無名のインディーズバンドのよう。自分たちの音楽(会社の魅力)には自信があるのに、その音が、誰の耳にも届くことなく、大歓声にかき消されていく。そのもどかしさと、どうしようもない無力感。
この問題の本質は、あなたの会社に魅力がないのではなく、大手企業と同じ「知名度」という土俵で、同じ戦い方をしてしまっているという、戦略のミスマッチにあります。大声コンテストで、メガホンを持つ相手に、地声で勝負を挑んでいるようなものなのです。
その不毛な消耗戦から撤退し、「マス(大衆)」に知られることをやめ、「ニッチ(特定層)」に熱狂的に愛される存在になるための、新しい時代の“発見”されるためのナラティブ(物語)戦略をご提案します。
ステップ0:なぜ、あなたの会社は”発見”されないのか?を診断しよう
知名度の壁に阻まれる企業には、情報発信における、いくつかの共通した課題があります。
- □ 大手と同じ土俵型:
大手企業と同じ、大手求人ナビサイトや、大規模な合同説明会を主戦場にしてしまっている。 - □ 「何屋か不明」型:
採用サイトを見ても、「未来を創造する」といった抽象的な言葉ばかりで、この会社が「誰の、どんな課題を、どうやって解決しているのか」が、10秒で理解できない。 - □ 待ちの姿勢・受け身型:
採用サイトやSNSアカウントを作っただけで満足し、「いつか誰かが見つけてくれるだろう」と、待ちの姿勢に終始している。 - □ ストーリー不在・スペック型:
語っているのが、「売上高〇〇円」「業界シェア〇%」といった、無機質な”スペック”ばかり。その裏にある、創業の想いや、社員の奮闘といった、血の通った”ストーリー”がない。 - □ ターゲット曖昧・八方美人型:
「コミュニケーション能力の高い、主体性のある学生」といった、曖昧なターゲット設定のため、メッセージが誰の心にも深く刺さらない。
これらは全て、「自分たちが誰で、誰に、何を伝えたいのか」という、ブランディングの根幹が定まっていないことが原因です。
ステップ1:思想をアップデートする。「有名になる」から「見つけてもらう」へ
「全員に好かれよう」という、呪いを、まず捨てましょう。あなたの会社は、100人の学生のうち、99人に無視されても構いません。しかし、残りの1人にとって、「こんな会社を探していた!」と、運命を感じるような存在になる。それが、知名度の低い企業が取るべき、唯一の戦略です。
【新しい採用の思想】
「メガホンではなく、磁石になれ」
メガホンは、不特定多数に、同じ情報を届けるための道具。
磁石は、特定の金属(=価値観の合う人材)だけを、静かに、しかし、強く引き寄せるための道具。
あなたの仕事は、最高の磁石(=魅力的なコンテンツ)を作り、それを最適な場所(=ターゲットがいるコミュニティ)に置くことです。
ステップ2:“埋もれる会社”から“見つかる会社”になるための具体的な打ち手
思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「誰にも知られていない」を「知る人ぞ知る、憧れの場所」に変える4つの打ち手をご紹介します。
1. 「ペルソナ」を先鋭化させ、”狙い撃ち”するチャネルを選ぶ
・例:「地方出身で、裁量権の大きい環境で成長したい、〇〇技術を独学で学ぶ学生」。
・ペルソナがいる場所(技術ブログ、特定オンラインサロン、大学研究室 等)を特定し、そこだけで発信。
・採用のミスマッチ率の低下
・採用コストの最適化
2. 「物語(ナラティブ)」で、記憶に残るフックを作る
・成功談だけでなく「最大の失敗談」など人間味のあるコンテンツも発信。
・面接での「ブログを読んで…」等の言及数
・応募に至らずとも好意的認知を持つ層の増加
3. 「社員」を会社の”顔”として、メディアに露出させる
・技術者はQiita・Zenn等で専門性を発信。
・公式アカウントは社員の発信をシェアし、後方支援に徹する。
・特定社員を指名したカジュアル面談希望数
・「顔の見える化」と信頼性の向上
4. 「Give」を起点とした、コミュニティ・ビルディング
・例:「現役エンジニアのポートフォリオ作り講座」「若手マーケターと語るガクチカ深掘りWS」。
・その場では一切、自社PRはしない(Giveに徹する)。
・参加者との継続関係(タレントプール化)
・「専門性」「貢献性」イメージの確立
成功のための深掘り解説
打ち手1:「ペルソナ」を先鋭化させ、“狙い撃ち”するチャネルを選ぶ
これは、採用活動の成否を分ける、最も重要な最初のステップです。「誰にでも」というメッセージは、誰にも届きません。「あなたに」と、たった一人に向けて書いたラブレターだけが、人の心を動かします。ペルソナを具体的に描くことで、私たちは初めて、その人がいる場所に行き、その人が理解できる言葉で、語りかけることができるのです。
打ち手2:「物語(ナラティブ)」で、記憶に残るフックを作る
人は、スペックを記憶できません。しかし、物語は記憶できます。「売上〇〇億円」は明日には忘れても、「倒産寸前の会社を、一つの技術で立て直した、創業者の物語」は、忘れません。あなたの会社の歴史、失敗、挑戦。その全てが、学生の心を掴む、最高のエンターテイメントコンテンツになるのです。
打ち手3:「社員」を、会社の“顔”として、メディアに露出させる
学生は、「企業ロゴ」には共感しません。「楽しそうに働く、一人の人間」に共感し、憧れます。知名度のない会社にとって、社員こそが、最高の広告塔です。会社の公式アカウントが「私たちの社風はフラットです」と100回言うよりも、一人の若手社員が「今日、部長と趣味の話で30分も盛り上がっちゃったw」と一回つぶやく方が、遥かに雄弁に、そして信頼性をもって、その魅力を伝えます。
打ち手4:「Give」を起点とした、コミュニティ・ビルディング
「私たちの会社に来てください(Take)」とお願いする前に、「あなたのキャリアのために、私たちが持つ知識を提供します(Give)」という、無償の貢献から始める。この姿勢は、学生に「この会社は、自分をただの労働力としてではなく、一人の人間として、成長を応援してくれる存在だ」という、強烈な信頼感を抱かせます。その信頼の先にこそ、本当の意味での「採用」が待っているのです。
明日からできることリスト
- ・ペルソナ案のドラフトを描く
- 自社で理想とする学生像を具体的に書き出してみる(例:〇〇大学、地方出身、趣味で〇〇をやっていた、事業に志を感じて、、など)。
- ・社員の“物語コンテンツ”を一つ作ってみる
- 社員の失敗談も含めたストーリー記事、あるいは社員が経験してきたチャレンジを語るブログ投稿案または動画案を一つ準備する。
- ・社員発信を含めた SNS 投稿計画を組む
- 若手社員などに「私の○○な日常」「どういう気持ちで仕事をしているか」というテーマで発信してもらう内容案を出し、本格的に開始する。
- ・Give型オンラインイベントの企画案を立てる
- 採用と関係ないが学生に役立ちそうなオンライン講座やワークショップ案を1つ考えてみる(例:ポートフォリオ講座/業界の未来を語るセッション etc)。
- ・採用サイトのトップ構成をストーリー起点に見直す
- 「なぜこの会社をやるか」の物語を最上部に据える案をサイト担当者と話してみる。現行サイトトップをスクリーンショットして、物語起点バージョンのモックアップを簡単に描いてみる。
「有名な大企業」ではなく、「誰かの人生を変える、運命の一社」
採用担当者は、自社の知名度の低さを嘆く、一人の社員ではありません。
あなたは、まだ世に知られていない、最高の才能(自社)と、最高の才能(学生)とを、結びつける、インディーズレーベルのプロデューサーなのです。
マスに届ける必要はありません。たった一人でいい。
あなたの会社が発信する物語に、心を震わせ、「ここが、私の居場所だ」と感じてくれる、未来の仲間を見つけ出すこと。
その奇跡のような出会いを、戦略的に、そして意図的に創り出すことこそが、採用担当者という仕事の、最高の醍醐味と言えるでしょう。