打ち手辞典

『BtoBの“不可視の壁”』を突破するインパクト・ストーリーテリング

「BtoB企業なので、一般消費者の目に触れず、就活生には存在すら知られていないことが、全ての始まりにして最大の壁です。」

世界的な大ヒット映画を支える、最高の音響スタッフやCGアーティストのよう。エンドロールで名前は流れるけれど、誰もその顔を知らない。社会にとって不可欠な仕事をしているという自負と、就活市場で誰にも見つけてもらえない現実との、残酷なまでのギャップ。

この問題の本質は、あなたの会社に魅力がないのではなく、その魅力がBtoBという、学生にとって馴染みのない「言語」でしか語られていないことにあります。専門的で、誇り高いその言語が、残念ながら、学生には“異国の言葉”のように聞こえてしまっているのです。

この辞典は、その「言語の壁」を打ち破り、採用担当者がBtoBならではの魅力を、学生が理解し、興奮できる「物語」へと翻訳する「最高のストーリーテラー」へと進化するための、具体的な打ち手をご提案します。


ステップ0:なぜ、あなたの会社は“縁の下の力持ち”から抜け出せないのか?を診断しよう 🔍

BtoB企業が、その真の魅力を伝えきれずにいる背景には、いくつかの共通したコミュニケーションの課題があります。

  • □ BtoCコンプレックス型:
    学生に分かりやすく伝えようとするあまり、無理にBtoC企業のようなキラキラした見せ方をしようとし、かえって実態とのズレを生んでいる。
  • □ 専門用語・解説不能型:
    採用サイトや説明会で、自社の技術や製品を、業界の専門用語でしか説明できず、学生を置いてきぼりにしている。
  • □ 最終製品との断絶型:
    自社の部品や素材が、最終的に学生も知っている、あのスマートフォンや、あの自動車に使われているという、最も重要な“繋がり”を伝えられていない。
  • □ ”顧客”不在の物語型:
    自社の技術の「すごさ」ばかりを語り、その技術が「どの顧客(企業)の、どんな課題を解決したのか」という、具体的なサクセスストーリーがない。
  • □ 地味=悪・思考停止型:
    「どうせ、うちは地味だから」と、採用担当者自身が、自社の魅力を伝えることを諦め、当たり障りのない説明に終始している。

これらは全て、BtoBならではの「面白さ」を、魅力的な「物語」として翻訳・編集できていないことが原因です。


ステップ1:思想をアップデートする。「部品」の説明から、「物語」の主人公へ

「私たちは、〇〇という部品を作っています」という説明を、今日からやめましょう。

代わりに、こう語り始めます。「皆さんが、毎日使っているスマートフォン。その心臓部で、世界中の情報を繋いでいる、小さな巨人。それが、私たちの仕事です」

【新しいストーリーテリングの原則】

「見えないものを、見えるものに繋げ」

あなたの会社の「見えない」技術や製品を、学生が知っている「見える」最終製品や、社会の動き、人々の感情と結びつけること。この「接続」こそが、BtoB企業の魅力を、一瞬で理解させる魔法の鍵です。


ステップ2:“不可視の壁”を突破し、“憧れの的”になるための具体的な打ち手

思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「よく分からない会社」を「実は、すごい会社だったんだ!」に変える4つの打ち手をご紹介します。

1. 「もし、私たちの製品がなかったら?」ストーリーテリング

難易度 コスト 期間 次回の説明会から
目的
”縁の下の力持ち”の重要性を、不在を描く物語で劇的に示す
具体策
・会社紹介動画/説明会冒頭で「もし世界から当社製品が消えたら?」を提示。
・例:スマホが動かない/飛行機が飛ばない/安全な水が飲めない等を描写し、社会の基盤を支える仕事であると伝える。
主要KPI
・導入部分でのエンゲージメント
・事業理解度・共感度
・社会的重要性の認識

2. 「顧客の成功」を、自社の成功として語る

難易度 コスト 低~中 期間 3~6ヶ月
目的
有名BtoC企業のブランド力を借り、自社の魅力を伝える
具体策
・採用サイトの「プロジェクトストーリー」で顧客(許可要)を主語に語る。
・「〇〇社の新製品成功の裏に、当社△△技術の貢献」が伝わる構成にする。
主要KPI
・候補者の納得感/事業への興味
・ストーリー閲覧時間・読了率
・技術力/信頼性のPR

3. 「サプライチェーン探検」コンテンツの作成

難易度 コスト 期間 3~6ヶ月
目的
モノづくりの旅路を見せ、グローバルなスケール感を伝える
具体策
・原材料→加工→海外→最終製品までの流れを動画/インフォグラフィック化。
・「この町から出た小さな部品が世界を旅して手元へ」までを物語にする。
主要KPI
・グローバル性・スケール感の伝達度
・異分野学生からの応募数
・SNSシェア/拡散数

4. BtoBならではの「面白さ」を定義し、発信する

難易度 コスト 期間 次回の採用フローから
目的
“地味”の印象を“玄人好みで奥深い”魅力へ転換する
具体策
・座談会/ブログで「なぜBtoBは面白いか?」を発信。
・例:「100万人より世界を変える10社のパートナー」「派手さより深さ」「顧客はプロ、だから自分たちもプロでいられる」等の価値観を提示。
主要KPI
・内定承諾理由での「事業の面白さ」言及率
・専門志向の優秀層からの応募増
・採用ミスマッチの低減

成功のための深掘り解説

打ち手1:「もし、私たちの製品がなかったら?」ストーリーテリング

これは、当たり前すぎて、誰も気づかない「価値」を、喪失の恐怖によって、強烈に体感させる手法です。「ないと、こんなに困る」という物語は、「あると、こんなに便利」という物語よりも、遥かに人の心に突き刺さります。あなたの会社が、いかに現代社会の”OS”とも言うべき、不可欠な存在であるかを、ドラマチックに伝えましょう。

打ち手2:「顧客の成功」を、自社の成功として語る

これは、有名企業の“威光”を、自社のブランドへと巧みに取り込むブランディング戦略です。学生が知っている、あの華やかなBtoC企業の成功物語。その“公式スピンオフ作品”の主人公として、あなたの会社を登場させるのです。「あの成功は、私たちがいたからこそ成し得た」というストーリーは、どんな自社紹介よりも、雄弁に、そして客観的に、あなたの会社の技術力と信頼性を証明してくれます。

打ち手3:「サプライチェーン探検」コンテンツの作成

BtoBの仕事は、壮大なグローバル・リレーの、重要なバトンパスを担うようなものです。そのリレー全体の地図を見せてあげることで、学生は、自分たちが担う役割の重要性と、その仕事のスケール感を、初めて実感できます。このダイナミックな繋がりと、グローバルな広がりは、学生の知的好奇心を強く刺激するはずです。

打ち手4:BtoBならではの「面白さ」を定義し、発信する

不特定多数にウケる、分かりやすい面白さを追うのをやめましょう。代わりに、BtoBだからこそ味わえる、玄人好みの、深く、知的な面白さを、自信を持って語るのです。巨大な企業を相手に、数年がかりで、組織の根幹を変えるようなソリューションを提供する。その手応えと興奮は、BtoCビジネスでは決して味わえないものです。この“違い”こそが、熱狂的なファンを生む、強力な磁石となります。

明日からできることリスト

  • ・ストーリー導入の練習文を1文準備
    「私たちの技術がなかったら、スマホは動かず、飛行機も飛ばず…..」というような、喪失のインパクトを描く文面をメーリングや説明会用に1つ作っておく。
  • ・顧客成功ストーリー制作の仮企画を1つ立案
    社内で協力を得て、簡単な「顧客と共に解決した課題」ケースを1件まとめる案を作成。
  • ・サプライチェーン図を手書きで描いてみる
    「部品→加工→製品→届け先」の流れを簡単なフロー図にして、社内資料や採用資料の素材としてストック。
  • ・社員ブログ/座談会ネタを1つ企画
    「なぜBtoBで働くことが面白いか?」テーマの社員トーク案を用意し、社内向けに話してもらう場を作る下準備をする。
  • ・ストーリーテリング用の簡易テンプレートを作る
    (例:「Ifこの部品が無かったら→こんな影響→私たちはそこを支えている」という構成)をA4一枚のフォーマットで作成し、他の採用資料にも流用可能な形にする。

「誰もが知る表通りの人気店」ではなく、「知る人ぞ知る、裏通りの伝説の名店」

採用担当者は、自社の知名度のなさを嘆く、一人の社員ではありません。

あなたは、世界の“舞台裏”で、いかに面白いドラマが繰り広げられているかを、情熱をもって案内する、最高のツアーガイドなのです。

BtoBであることは、ハンデではありません。

それは、あなたの会社が、まだ誰にも語られていない、無数のエキサイティングな物語を秘めているという、可能性の宝庫であることの証です。

その宝の扉を開け、学生を、驚きと発見に満ちた、未知の世界へと誘うこと。

その先にこそ、「この会社のこと、知らなかった自分が恥ずかしい」と、目を輝かせる、未来の仲間との出会いが待っているのです。