打ち手辞典

『選択肢にすら入らない』という“圏外”の壁を突破する“第一想起”獲得戦略

「“知られていない”ということは、つまり、学生の“選択肢にすら入らない”ということ。これが、採用における一番の問題であり、全ての困難の始まりなんです。」

まるで、近所の美味しいレストランを探している人が、グルメサイトや地図アプリで店を探すのが当たり前の時代に、自分の店がそのどちらにも一切掲載されていないかのよう。どんなに素晴らしい料理を用意していても、その存在が「検索結果」に現れない限り、お客様(学生)が店の扉を開けることは、決してない。

この問題の本質は、あなたの会社に魅力がないのではなく、学生が「さて、就職活動を始めよう」と考え、頭の中の“買い物リスト”を作る、その遥か前の段階で、あなたの会社が、彼らの記憶の中に存在していないという、認知戦における完全な敗北にあります。

その「圏外」という立ち位置から脱却し、採用担当者を「応募を待つ人」から、学生の”脳内”に、自社のポジティブな記憶を植え付ける「ブランド・マーケター」へと進化させるための、新しい時代の“第一想起”獲得戦略をご提案します。


ステップ0:なぜ、あなたの会社は学生の“買い物リスト”に載らないのか?を診断しよう

学生の「選択肢」という名の、最初の関門を突破できない。その背景には、いくつかの情報戦略上の欠陥があります。

  • □ 情報接点・ゼロ型:
    そもそも、学生が日常的に情報を得ている場所(大学の授業、サークル、専門メディア、SNSなど)に、あなたの会社の情報が、一切存在していない。
  • □ カテゴリー・不明瞭型:
    たとえ社名を目にしても、「で、結局、何をしている会社なの?」が、直感的に理解できない。学生の頭の中で、どのカテゴリーの棚にも、分類されずに忘れ去られる。
  • □ 感情フック・不在型:
    発信する情報が、製品やサービスのスペックといった、無機質なものばかり。学生の感情に訴えかける、物語や、思想、人間味のあるコンテンツが皆無。
  • □ 第三者の”お墨付き”・皆無型:
    教授や、大学のキャリアセンター、業界の専門家といった、学生が信頼を寄せる第三者の口から、あなたの会社の名前が、一度も語られたことがない。
  • □ 受動的・待ちの姿勢型:
    「いつか、うちの価値に気づいてくれる学生が現れるはずだ」と、”発見”されるのを、ただひたすら待っている。

これらは全て、学生の「認知形成プロセス」を理解せず、いきなり「応募」というゴールだけを求めていることが原因です。


ステップ1:思想をアップデートする。「選ばれる」から、まず「思い出される」へ

マーケティングにおける「第一想起」の獲得。これを、採用活動の最重要目標に再設定します。

「〇〇業界で、面白い会社といえば?」と問われた時に、学生の頭の中に、真っ先にあなたの会社の名前が浮かぶ状態。それを作り出すことが、全ての始まりです。

「候補者リストを作る前に、思い出を作れ」

あなたの仕事は、就活生リストを集めることではありません。学生が、就活生になる前の段階で、「あの会社の、あの話、面白かったな」という、ポジティブな「思い出」を、一つでも多く作ってあげることです。


ステップ2:“圏外”から”第一想起”へとジャンプアップする、具体的な打ち手

思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「誰それ?」を「ああ、あの会社ね!」に変える4つの打ち手をご紹介します。

1. 「キャリア教育」への、徹底的な貢献(Give & Give)

難易度 コスト 低~中 期間 2年~
目的
就活前の大学1・2年生段階で、ポジティブな第一想起を獲得する
具体策
・「社会人基礎力」「ロジカルシンキング」など純粋なキャリア教育コンテンツを無償提供
・大学や学生団体で出張講義を実施し、信頼関係を早期構築
主要KPI
・低学年向け講義の回数と満足度
・数年後の自社認知度・志望度
・大学キャリアセンターや教授とのリレーション

2. 「社長/エース社員」のメディア露出と”スター化”

難易度 コスト 中(PR活動費) 期間 1年~
目的
”会社の顔”を作り、個人の魅力で学生の記憶にフックをかける
具体策
・社長やエース社員をニッチメディアやYouTubeに積極露出
・個人のストーリーを通じて会社の思想・魅力を伝える
主要KPI
・メディアでの掲載・引用回数
・社員の知名度/SNSフォロワー数
・「〇〇さんの記事を読んで」という応募者数

3. 学生向け「アワード」や「コンテスト」の主催

難易度 コスト 中~高(賞金・運営費) 期間 1年~
目的
”評価される”側から、”評価する”側へと立場を転換し、接点を創出する
具体策
・事業領域に関連した学生向けコンテストを主催(例:地域課題解決アイデアソン)
・優秀学生を発掘・表彰し、領域の権威ポジションを確立
主要KPI
・コンテスト応募数と採用決定数
・専門性/先進性のブランディング確立
・メディア取材機会の創出

4. 「〇〇といえば△△社」という”代名詞”戦略

難易度 コスト 期間 2年~
目的
特定キーワードと自社名を、強力に結びつける
具体策
・自社が第一人者として認知されたい領域を決定(例:AI活用、地方創生)
・調査レポートやイベントを継続発信し、SEOでトップを狙う
主要KPI
・特定キーワードの検索順位
・オーガニック流入比率
・業界内オピニオンリーダー地位の確立

成功のための深掘り解説

打ち手1:「キャリア教育」への、徹底的な貢献(Give & Give)

これは、最も遠回りに見えて、最も効果的な「刷り込み」戦略です。学生が、就活という鎧を身につける前の、素直で、吸収力の高い時期に、「あの会社の人には、お世話になったな」という、ポジティブな”恩”の記憶を刻む。その記憶は、数年後、彼らが就職先の選択肢を考える際に、何よりも強力な、無意識の”追い風”となります。

打ち手2:「社長/エース社員」の、メディア露出と“スター化”

人は、無機質な「会社」は覚えられませんが、魅力的な「個人」の物語は、忘れません。あなたの会社の社長やエース社員を、一人の魅力的な“スター”としてプロデュースし、世に送り出すこと。そのスターのファンになった学生は、やがて、そのスターが所属する“劇団(あなたの会社)”そのものに、強い興味を抱き始めるのです。

打ち手3:学生向け「アワード(賞)」や「コンテスト」の主催

これは、“待ち”の採用から、“攻め”の採用へと、立場を劇的に転換させる打ち手です。学生が応募してくるのを待つのではなく、企業側が、才能を発掘するための「舞台」を自ら創り出す。これにより、あなたは、その他大勢の企業から、未来のスターを選定する、“審査員”という、一段高いステージに立つことができるのです。

打ち手4:「〇〇といえば、△△社」という、“代名詞”戦略

これは、学生の“脳内検索エンジン”で、確実にトップ表示されるための、地道で、しかし、強力なブランディング活動です。「〇〇(特定のテーマ)について、深く知りたい」と思った学生が、検索してたどり着く先が、常にあなたの会社である、という状況を創り出す。その時、あなたの会社は、もはや「数ある選択肢の一つ」ではなく、「その道を志す者なら、誰もが知るべき、最高の情報源」へと、その姿を変えているでしょう。

明日からできることリスト

  • ・自社の診断タイプをチェックする
    • ステップ0の項目(情報接点ゼロ型、カテゴリー不明瞭型など)を使って、まず自社がどのタイプに当てはまるかを現場で確認してみる。
  • ・学生との早期接点確保のための出張講義案を作る
    • 「キャリア教育を提供する一回の講義を大学で実施する」案を考え、候補大学への連絡案文案をドラフトしておく。
  • ・社長または注目の社員のストーリーを一つ収集する
    • インタビュー形式でも良いので、「学生が記憶に残るユニークなエピソード」を引き出し、記事やSNS用にまとめる準備。
  • ・小規模コンテストの企画アイデアを1つ出す
    • 「○○コンテストを社内で実施」などのテーマ案、予算・運営規模・ターゲット学生層などを机上ででも設計してみる。
  • ・代名詞戦略のキーワード案を作る
    • 自社が「〇〇といえば△△社」と思われたいテーマを 1~2 つ選び、それに関連するブログ記事・SEO戦略案をメモしておく。

「全ての学生に知られる」ことではなく、「出会うべき学生に、出会うべくして発見される」こと

採用担当者は、自社の知名度のなさを嘆く、一人の社員ではありません。

あなたは、まだ価値の知られていない、最高の原石(自社)を、未来の仲間(学生)の記憶に、鮮やかに刻み込む、ブランド・ビルダーなのです。

就活という、ごく短い期間の戦いから、一度、視点を高く、そして、遠くへ移すこと。

学生の、もっと長い人生の、もっと早い段階で、彼らにとって価値ある存在になること。

その長期的な視座と、地道な活動の先にこそ、「選択肢にすら入らない」という絶望的な現在を、「あなたしか、考えられない」という、希望に満ちた未来へと変える、確かな道が拓けているのです。