打ち手辞典

『そもそも認知不足』という根本課題を解決する“第一想起”獲得ロードマップ

「応募数が少ないのは、広報以前に“認知不足”が原因だ」

その一言は、日々の採用活動の中で、あなたが掴み取った、極めて的確で、そして、最も本質的な”診断”です。多くの採用担当者が、目の前の施策(戦術)の改善に追われる中、その全ての根底にある、この「そもそも知られていない」という根本課題(戦略)に辿り着けた。

しかし、その“不都合な真実”に気づいてしまったからこそ、目の前の壁のあまりの巨大さに、途方に暮れてしまう。

その絶望的なまでの「認知の壁」を前に、採用担当者が、自社の「初代・最高マーケティング責任者(CMO)」として立ち上がり、ゼロから“認知”という名の資産を築き上げるための、長期的で、しかし、確実なロードマップをご提案します。


ステップ0:なぜ、あなたの会社は“見つけて”もらえないのか?を診断しよう

あなたの的確な診断を、さらに解像度高く分析してみましょう。

  • □ 情報発信の絶対量・不足型:
    そもそも、あなたの会社に関する情報が、インターネットの海に、ほとんど存在していない。
  • □ 発信場所のミスマッチ型:
    学生がいない場所(例:業界専門誌)でばかり、情報発信をしてしまっている。
  • □ メッセージの無味乾燥型:
    発信している情報が、製品スペックや決算報告といった、学生にとって”無味乾燥”なものばかりで、心が動かない。
  • □ 第三者の言及・皆無型:
    社員以外の、誰も(メディア、教授、他の学生など)あなたの会社のことを語っておらず、客観的な信頼性がゼロ。
  • □ 長期視点の欠如型:
    採用予算の全てを、短期的な応募者獲得(刈り取り)に使い、中長期的な認知度向上(種まき)への投資を一切行っていない。

これらは全て、採用活動を「マーケティング活動」として捉えられていないことに起因します。


ステップ1:思想をアップデートする。「応募」から、その三歩手前の「認知」へ。戦場を移す

採用活動を、学生の心理変容に沿った「採用マーケティング・ファネル」で捉え直します。

【採用マーケティング・ファネル】

  1. 認知(Awareness): 「〇〇という、面白いことをやっている会社があるらしい」←今から創るのは、ここ!
  2. 興味・関心(Interest): 「どんな会社だろう?」と、自ら検索し、調べる。
  3. 比較・検討(Consideration): 競合他社と比較し、「自分に合っているかも」と感じる。
  4. 応募(Application): 具体的な求人に応募する。

これまで、私たちは「4. 応募」を増やすことばかりに注力してきました。しかし、「1. 認知」の入り口が、砂漠のように乾ききっていては、応募という”果実”が実るはずがないのです。私たちの主戦場は、「1. 認知」です。


ステップ2:“認知ゼロ”から”第一想起”へ。中長期ロードマップ

思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「無名の存在」を「知る人ぞ知る、憧れの存在」へと変える、段階的な打ち手をご紹介します。

第1段階(~6ヶ月) 土台作り

1. 「私たちは何者か?」を定義する

難易度 コスト 期間 ~3ヶ月
目的
”誰に” ”何を”伝えるかの、ブレない軸を作る
具体策
・採用したい人物像(ペルソナ)を極めて具体的に定義
・そのペルソナに響く、自社独自の価値提案(EVP)を言語化
主要KPI
・UVP/ペルソナの言語化、社内合意
・採用メッセージの明確化

2. 「社員」を主役にした、オーセンティックなコンテンツの制作

難易度 コスト 低~中 期間 ~6ヶ月
目的
認知の”核”となる、共感を呼ぶ物語の資産を作る
具体策
・社長の創業ストーリー、エース社員の失敗談、若手社員の日常Vlogなどを発信
主要KPI
・コンテンツのPV数、滞在時間
・SNSでのエンゲージメント率

第2段階(~1年) ゲリラ戦

3. 「Giveファースト」で、ニッチコミュニティに潜り込む

難易度 コスト 低~中 期間 ~1年
目的
”発見”されるための、小さな接点を無数に作る
具体策
・ペルソナがいる場で採用と無関係な「お役立ち情報」を提供
・無料勉強会やワークショップを主催し、専門家集団として認知される
主要KPI
・イベント参加者数
・採用サイトへのオーガニック流入数
・社員発信経由での応募数

第3段階(1年~) 権威化

4. 「〇〇といえば、△△社」という”代名詞”戦略の実行

難易度 コスト 中~高 期間 1年~
目的
その領域で学生が真っ先に思い浮かべる”第一想起”の地位を確立する
具体策
・業界ニッチメディアや大学教授を巻き込み、専門性を第三者の声で発信
・コンテストやアワードを主催し、未来を担うリーダーとして存在感を示す
主要KPI
・採用サイトへの指名検索流入比率
・メディア掲載・引用回数
・ターゲット学生からの応募数・質

成功のための深掘り解説

第1段階:土台作り

全ての物語は、魅力的な「主人公」と、明確な「メッセージ」から始まります。この段階で、焦って情報発信を始めてはいけません。まず、社内で徹底的に議論し、「私たちは、何者で、誰に、何を届けたいのか」という、採用ブランディングの”憲法”を制定すること。この揺るぎない軸が、その後の全ての活動の質を決定づけます。

第2段階:ゲリラ戦

大手が、テレビCMや巨大広告という”正規軍”で攻めてくるなら、私たちは、社員一人ひとりの言葉と、専門知識という“ゲリラ兵”で戦います。マス(大衆)を狙う必要はありません。ターゲットがいる、たった一つの研究室、たった一つのオンラインコミュニティで、「あの会社の、あの人、面白いよね」という、小さく、しかし、熱量の高い“火種”を、いくつも作るのです。

第3段階:権威化

小さな火種が、やがて大きな炎となるには、“権威”という名の風が必要です。自社の魅力を、自分たちの口からだけでなく、学生が信頼するメディアや、尊敬する教授といった、「第三者の口」から語ってもらうこと。そして、自らが学生を評価するだけでなく、学生に活躍の舞台を提供する「アワードの主催者」という、一段高いステージに立つこと。これにより、あなたの会社は、単なる選択肢の一つから、「その道を志すなら、無視できない存在」へと、その“格”を上げるのです。

明日からできることリスト

  • ・自社の診断タイプの実践チェック
    • ステップ0のチェックリストを使って、自社がどのタイプ(例:情報発信不足/メッセージ無味乾燥など)に該当するかをチームで診断し、認識を共有しましょう。
  • ・UVP/ペルソナ案のドラフト作成
    • 第1段階にある「何者かを定義する」施策として、採用ターゲットとその人物像(ペルソナ)と、自社独自の価値提案(UVP)を言葉にして草案を作りましょう。
  • ・社員ストーリー素材の収集スタート
    • 社長や若手社員の失敗談・日常・情熱など、オーセンティックなコンテンツ素材を一つでも撮影・文章化しておくと、次の打ち手にすぐ素材として使えます。
  • ・小規模な「Give型」イベントの企画案立案
    • ターゲットがいそうなコミュニティでお役立ち情報を提供する勉強会やワークショップのアイデア案を1つ作り、いつ・どの層で実施するか設計する。
  • ・代名詞戦略のキーワード案の洗い出し
    • 「〇〇といえば△△社」というような言葉を考えるため、業界や学生が記憶しやすい固有名詞案をいくつかリスト化し、その由来や背景ストーリーも付記してアイデア化してください。

「一瞬で有名になる」ことではなく、「時間をかけて、忘れられない存在になる」こと

採用担当者は、魔法のランプをこすって、一夜にして会社を有名にできる、魔法使いではありません。

あなたは、今はまだ誰も知らない、荒れ果てた土地に、一本一本、苗木を植え、水をやり、時間をかけて、豊かな森を育てる、粘り強い開拓者なのです。

「認知不足」という課題は、短期的な施策では決して解決しません。

それは、経営陣をも巻き込み、会社の在り方そのものを問い直し、年単位で、地道な種まきを続けるという、壮大で、しかし、極めて創造的なプロジェクトです。

その長い旅路の先にこそ、あなたの会社が、ただ“知られている”だけでなく、未来の仲間から、深く、そして、熱狂的に”愛される”という、最高の景色が待っているはずです。