打ち手辞典

“点”の施策が“線”にならない課題を解決する候補者体験ジャーニー設計術

「インターン、説明会、SNS…、一つひとつの施策は、頑張って増やしている。しかし、全てが”点”で終わってしまい、”線”として繋がらない。結果、母集団の”質”が、全く改善されない…」

まるで、最高の食材(個々の施策)を、たくさん仕入れてはいるものの、それらが一つのコース料理(一貫した候補者体験)として全く連携しておらず、ただバラバラに皿に盛られているだけのシェフのよう。品数は増えても、レストラン(自社)の評価は一向に上がらない。やっても、やっても、成果に繋がらない。

この問題の本質は、あなたの個別の施策が悪いのではなく、施策と施策の間を繋ぐ「物語(ナラティブ)」と「導線(ファネル)」が、完全に欠落しているという、採用活動全体の“設計思想”の課題にあります。

その場当たり的な「点の採用」から脱却し、採用担当者を「施策の実行者」から、候補者の心を動かす旅をデザインする「ジャーニー・アーキテクト」へと進化させるための、新しい時代の打ち手をご提案します。


ステップ0:なぜ、あなたの“頑張り”は、“空回り”で終わってしまうのか?を診断しよう 🔍

施策を増やせば増やすほど、むしろ、ちぐはぐな印象を与えてしまう。その”空回り”の背景には、いくつかの構造的な欠陥があります。

  • □ チャネルのサイロ化・連携不足型:
    SNS担当、イベント担当、ナビサイト担当が、それぞれ別の目標を追い、情報も連携もしていない。
  • □ 候補者視点の“旅”・欠如型:
    企業側の「あれも伝えたい、これも伝えたい」という都合が優先され、学生が「どのタイミングで、どんな情報を、どんな気持ちで求めているか」という、候補者視点が欠けている。
  • □ メッセージの一貫性・不在型:
    説明会では「挑戦」を語るのに、採用サイトでは「安定」を謳い、面接官は「協調性」を求めるなど、各接点で発信するメッセージがバラバラで、学生を混乱させている。
  • □ 「量」を追うKPI・継続型:
    各施策の評価が、「イベント参加者数」「SNSのフォロワー数」といった、短期的な”量”の指標に留まり、「質の高い応募に繋がったか」という、最終的なゴールとの連携が取れていない。
  • □ 戦略不在・戦術過多型:
    「何をすべきか(戦術)」の議論は多いが、「なぜ、それをすべきか(戦略)」という、全ての活動を貫く、一本の太い”軸”が存在しない。

これらは全て、採用活動の“設計図”が存在しないまま、場当たり的な増改築を繰り返していることが原因です。


ステップ1:思想をアップデートする。「施策の足し算」から「体験の掛け算」へ

まず、一枚の大きな紙を用意し、「採用カスタマージャーニーマップ」を描くことから始めます。これは、あなたの採用活動全体の“設計図”となります。

【採用カスタマージャーニーマップの5段階】

  1. 認知(Awareness): 学生が、初めてあなたの会社を知る瞬間。
  2. 興味・関心(Interest): 「面白そうだ」と、もっと知りたくなる瞬間。
  3. 比較・検討(Consideration): 競合他社と比べ、「自分に合っているかも」と考える瞬間。
  4. 応募・選考(Application/Selection): 「仲間になりたい」と、具体的な行動を起こす瞬間。
  5. 内定承諾(Decision): 「ここで働く」と、最終的な決断を下す瞬間。

あなたの仕事は、この各段階で、学生の心を、次の段階へと押し上げる、最高の体験をデザインし、それらを、滑らかな“線”で繋ぐことです。


ステップ2:“点の施策”を“最強の戦略”へと進化させる、具体的な打ち手

思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「バラバラな活動」を「計算され尽くした戦略」に変える4つの打ち手をご紹介します。

1. 「採用カスタマージャーニーマップ」の作成と全社共有

難易度 コスト 低(工数のみ) 期間 1〜3ヶ月
目的
採用活動全体の“羅針盤”を創る
具体策
・5段階ごとに「学生の心理・行動」「施策」「伝えるメッセージ」「KPI」をマップ化。
・全関係者と共有し、「今どこに取り組んでいるか」の共通認識を醸成。
主要KPI
・各ステップの歩留まり率
・採用活動全体のROI
・社内の理解と協力度

2. EVPを全ての“点”を貫く背骨に

難易度 コスト 期間 3〜6ヶ月
目的
一貫したブランドメッセージを構築
具体策
・「当社で働く=〇〇という特別な価値」と定義。
・SNS投稿、説明会、面接、内定者フォローすべてをEVPに沿って設計。
主要KPI
・ブランドメッセージの一貫性/浸透度
・応募者の質とミスマッチ低減
・ブランディング調査での独自性スコア

3. 施策ごとの役割と導線を明確化

難易度 コスト 期間 次回の施策から
目的
“やりっぱなし”をなくし矢印で繋ぐ
具体策
・各施策に「ゴール」と「次に取らせたい行動」を設定。
・例:TikTok→ブログ記事遷移、ブログ→座談会申込へ。
主要KPI
・次のステップへのCTRなどコンバージョン率
・候補者の離脱率低下
・施策ごとのROI明確化

4. ファネル全体をデータで可視化・改善

難易度 コスト 中(分析工数) 期間 3ヶ月〜
目的
“勘”から“データ”へ、科学的改善活動へ
具体策
・ATSや表計算で「認知→興味→検討→承諾」を定点観測。
・95%離脱などのボトルネックを特定し、優先的に改善。
主要KPI
・ファネルボトルネックの特定
・データドリブンな改善サイクル
・予測可能性とコントロール精度

成功のための深掘り解説

打ち手1:「採用カスタマージャーニーマップ」の作成と、全社共有

これが、あなたの会社を、“戦術過多・戦略不在”の罠から救い出す、最高の羅針盤です。この一枚の地図があるだけで、全ての関係者は、「なぜ、今、この施策をやるのか」という、その戦略的な位置づけを理解できます。これにより、あなたの活動は、単なる思いつきの点の集合から、全員が同じ目的地を目指す、壮大な旅へと、その意味を変えるのです。

打ち手2:「EVP(従業員価値提案)」を、全ての“点”を貫く“背骨”とする

最高の映画には、必ず、全てを貫く、強力な「テーマ」があります。EVPは、あなたの採用活動という映画の、最も重要な「テーマ」です。SNSでは「楽しさ」を、説明会では「安定性」を、面接では「挑戦」を、と、バラバラの魅力を語っていては、学生の頭の中には、支離滅裂な印象しか残りません。全ての物語が、このEVPという“背骨”に繋がっていること。それが、深く、そして、忘れられないブランド体験を創り出すのです。

打ち手3:各施策の「役割」と「次のステップへの導線」を明確化する

一つひとつの施策に、明確な“ミッション”を与えましょう。「説明会のミッションは、応募数を増やすことではなく、次の“限定座談会”への参加者を、20名集めること」。このように、ゴールを具体的に設定することで、施策の内容は、自ずと最適化されていきます。そして、その次のステップへの橋を、いかに魅力的で、渡りやすいものにするか。その設計こそが、採用担当者の腕の見せ所です。

明日からできることリスト

  • ・自社施策の“点 vs 線”の振り返りワークをやる
    • 採用関係の施策(SNS投稿、説明会、採用サイト更新、社員動画など)を列挙し、それぞれどのフェーズ(認知・興味・検討・応募・決定)に対応しているかをカードに貼る。足りないフェーズや接続が弱いフェーズを洗い出す。
  • ・採用カスタマージャーニーマップを仮案で描いてみる
    • 認知 → 興味 → 検討 → 応募 → 内定承諾 の5段階を軸に、自社のタッチポイント(SNS、説明会、ナビサイト、面接など)をプロットし、「この接点で何を伝えたいか」のメッセージも書き込んでみる。
  • ・EVP(従業員価値提案)の文言草案を整理する
    • 「当社で働く=どんな価値があるか」を一文で表す案を複数出してみる。例えば、「あなたの挑戦が、会社の未来を作る」「仲間と共に成長できる自由と責任」など。これを用いて、既存施策のメッセージを揃える方向に案を立てる。
  • ・施策ごとに ’次のステップへの導線’ を追加/見直す
    • たとえば SNS 投稿 → 説明会案内リンク/説明会後 → ブログ記事案内/ナビサイト → 社員紹介動画など、各施策で「次にどこに誘導したいか」の導線を一つ整備する。
  • ・ファネルの可視化を始める
    • 今までの採用/応募データを使って、「認知(例 Web流入 or SNS閲覧)→説明会参加 →応募 →内定承諾」の大まかな歩留まり率を現状把握する。ボトルネックがどこかを仮定して改善案を設計。
  • ・社内共有の場を設ける
    • ジャーニーマップ・EVP案・導線案などを採用チームや関係部門(広報/学生採用/説明会運営など)で共有し、「これは各施策で発信する一貫性の軸」として共通理解を持つためのミーティングを設定する。

打ち手4:「ファネル全体」の、歩留まりをデータで可視化・改善する

採用担当者の“勘”は、貴重です。しかし、“勘”と“データ”が組み合わさった時、あなたは最強になります。「なんとなく、説明会からの歩留まりが悪い気がする」という感覚を、「データによると、説明会参加者の、選考移行率は、わずか5%です。これは、業界平均の半分以下です」という、誰もが反論できない”事実”に変える。このデータ分析能力こそが、あなたの改善活動に、強力な説得力と、推進力を与えるのです。

「多くの施策をこなす」ことではなく、「一つの、美しい物語を紡ぐ」こと

採用担当者は、数多のタスクを、ただひたすらこなす、オペレーターではありません。

あなたは、候補者という名の主人公が、最高の体験をする、壮大な旅の物語を書き、演出し、そして、ハッピーエンドへと導く、最高の映画監督なのです。

「点」で終わってしまう、そのもどかしさは、あなたが、より高い視座、すなわち「監督」の視点を持つべき時が来た、という、成長のサインです。

個別のシーン(施策)の撮影に追われるのをやめ、一度、編集室に入り、物語全体の“繋がり”を見つめ直してみませんか?

その先にこそ、あなたの全ての努力が、美しい一本の“線”として繋がり、最高の傑作(=質の高い母集団の形成)が生まれる、輝かしい未来が待っているはずです。