打ち手辞典

『運用リソースがない』という“絶望”を乗り越える“コンテンツ工場”構築術

「SNSやオウンドメディアで、継続的に情報発信をしなければならないのは分かっている。しかし、採用担当は私一人。日々の業務に追われ、とてもそんなリソース(時間・人手)はない…」

まるで、一人で切り盛りするレストランのシェフのよう。最高の料理(採用業務)を作るだけで手一杯なのに、さらに、店の宣伝(広報活動)のための、魅力的なチラシやSNS投稿まで、毎日自分で作れと言われている。

この問題の本質は、あなたの「時間」や「能力」が足りないのではなく、採用広報を「ゼロから、全て、自力でコンテンツを創り出す、苦行」だと思い込んでしまっているという、思考の罠にあります。

その「自力でのコンテンツ制作」という呪縛からあなたを解放し、採用担当者を「孤独なクリエイター」から、社内に眠る無数の“資産”を、巧みに編集・活用する「プロデューサー」へと進化させるための、新しい時代の“コンテンツ工場”構築術をご提案します。


ステップ0:なぜ、あなたの“コンテンツ作り”は、“苦行”になってしまうのか?を診断しよう

継続的な情報発信が、なぜ、これほどまでに、担当者を疲弊させてしまうのか。その背景には、いくつかの非効率な“思い込み”があります。

  • □ 一人・抱え込み型:
    「採用広報は、人事の仕事」という固定観念に縛られ、全てのコンテンツを、自分一人で企画し、作成しなければならないと思い込んでいる。
  • □ ゼロイチ思考・毎回新作型:
    投稿するコンテンツは、毎回、全く新しい、オリジナルのものでなければならない、と信じ込んでいる。
  • □ 完璧主義・高品質病:
    たった一本の記事や動画のために、プロ並みのクオリティを求め、編集や推敲に、何十時間も費やしてしまっている。
  • □ 「お宝」の存在・未認識型:
    社内の他部署(営業部、開発部、広報部など)が、日々の業務の中で作成している資料や、社内報の記事が、実は、採用広報の“最高のお宝”であることに、気づいていない。
  • □ 「協力依頼」の下手さ型:
    現場の社員に、「ブログ、書いてください」と、漠然とした、負担の大きい“丸投げ”のお願いをしてしまい、敬遠されている。

これらは全て、自分一人を「生産者」と捉え、社内全体を「生産資源」として捉えられていないことが原因です。


ステップ1:思想をアップデートする。「クリエイター」から「編集長(エディター・イン・チーフ)」へ

あなたは、全ての記事を書く、一人の記者ではありません。

あなたは、社内にいる、何十人、何百人もの「記者(社員)」たちから、最高の“ネタ”を引き出し、それを、読者(学生)にとって、最も面白い形に「編集」し、世に送り出す、メディアの「編集長」なのです。

「創造するな。収集・編集し、可能にせよ。」

あなたの仕事は、キーボードを叩くことではありません。社員が、最も楽に、そして、最も楽しく、自らの物語や知見を語れる“仕組み”を、デザインすることです。


ステップ2:“苦行”を“文化祭”へと変える、具体的な打ち手

思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「一人での奮闘」を「組織での共創」に変える4つの打ち手をご紹介します。

1. 「社員」を”持ち回り制の特派員”にする

難易度 コスト 期間 3ヶ月~
目的
コンテンツ制作の責任を分散し、属人化を防ぐ
具体策
・採用ブログやSNSを「今週の担当は〇〇部」と持ち回り制に。
・「一番嬉しかったこと」「仕事道具紹介」など簡単テーマで投稿。
・写真1枚+数行でOKとし、ハードルを下げる。
主要KPI
・月間制作本数の安定化
・採用担当者工数の削減率
・社員の当事者意識向上

2. 「既存の社内資料」を”お宝”として再利用

難易度 コスト 期間 即時~
目的
ゼロから作らず、社内資産を最大限活用する
具体策
・営業資料→顧客課題解決記事化
・開発勉強会資料→技術解説コンテンツ化
・社内報→採用SNSに転用
主要KPI
・再利用資料の制作本数
・リードタイム短縮度
・部署間連携/相互理解促進

3. 「インタビュー」で最小工数のコンテンツ生産

難易度 コスト 期間 即時~
目的
“書く負担”ゼロで、話すだけで情報を収集する
具体策
・社員に執筆依頼せず、15分インタビューを実施。
・録音/録画を元に記事や動画を制作。
・文字起こしツール活用でさらに効率化。
主要KPI
・社員協力ハードルの低下
・質の高い一次情報収集
・ワンソース・マルチユースの実現

4. 「学生」をコンテンツメーカーとして巻き込む

難易度 コスト 期間 イベントごと
目的
学生を受け手から作り手に変え、UGCを創出
具体策
・イベント参加者に「#〇〇社イベントレポ」でSNS投稿依頼。
・優秀投稿を公式で紹介。
・内定者ブログをリレー連載化。
主要KPI
・UGC発生数
・第三者視点のリアル発信
・内定者の帰属意識向上

成功のための深掘り解説

打ち手1:「社員」を、”持ち回り制の特派員”にする

これは、「誰か、書いてくれませんか?」という、曖昧で、負担の大きい“お願い”を、「今週は、あなたの番です」という、具体的で、負担の軽い“仕組み”に変えるアプローチです。テーマを極限までシンプルにすることで、「それくらいなら…」と、社員の協力ハードルを劇的に下げることができます。この地道なリレーが、あなたの会社の、リアルで、多様な日常を映し出す、最高のドキュメンタリーとなるのです。

打ち手2:「既存の社内資料」を、“お宝”として再利用(リサイクル)する

あなたの会社は、あなたが思う以上に、既に、大量の素晴らしいコンテンツ資産を持っています。ただ、それらが、「採用」という目的のために、まだ”編集”されていないだけなのです。採用担当者は、社内という広大な図書館を巡り、学生にとって価値のある本(資料)を見つけ出し、貸し出す、最高の司書になるべきです。

打ち手3:「インタビュー」を、最小工数のコンテンツ生産術にする

忙しいエース社員にとって、「ブログを2時間かけて書く」のは苦痛でも、「自分の専門分野について、30分間、情熱的に語る」のは、むしろ喜びです。社員の最も得意で、最も負担の少ない方法で、彼らの頭の中にある“お宝”を引き出す。この“聞き出すプロ”になることが、リソース不足の状況下で、質の高いコンテンツを量産するための、最も賢い方法です。

打ち手4:「学生」を、“コンテンツメーカー”として巻き込む

採用広報は、必ずしも、企業からの一方通行である必要はありません。学生自身の“リアルな声”こそが、他のどの学生にとっても、最も信頼できる情報です。彼らを、単なる“受け手”から、共に採用ブランドを創り上げる“パートナー”へと、その役割を転換させる。この発想が、あなたの採用広報を、より立体的で、共感性の高いものへと進化させます。

明日からできることリスト

  • ・“苦行型コンテンツ思考”の自社診断をチーム実施
    • ステップ0のチェック項目(“一人抱え込み型”など)を使って現状を振り返り、どの思考に当てはまるかを共有。
  • ・社員特派員制度の試作企画
    • 今週の担当を決めて「今週の特派員」枠で、簡単投稿(写真+数行)を1投稿依頼してみる。
  • ・社内資料の棚卸し+素材化案作成
    • 社内報、営業資料、勉強会資料など内に眠るコンテンツを洗い出し、採用用に転用できそうなものをリスト化。
  • ・15分インタビューで記事化スタート
    • 関心ある社員相手に「仕事のモチベーション」などテーマを決めて短いインタビュー → 文字起こしツールで記事化してSNSに投稿。
  • ・学生巻き込みコンテンツの企画
    • イベントや説明会に参加した学生に「イベントレポート投稿」をお願いし、公式で紹介する仕組みを草案化。
  • ・制作進捗共有のテンプレート設置
    • “今月のコンテンツ本数・担当者・進捗”などを共有する簡易スプレッドシートや掲示板スペースを作り、見える化してチーム共有。

「全てを自作する、孤独な芸術家」ではなく、「最高の才能を集め、作品をプロデュースする、敏腕編集長」

採用担当者は、リソース不足を嘆きながら、一人でコンテンツを作り続ける、悲劇の主人公ではありません。

あなたは、社内に眠る、無数の才能と物語を、誰よりも巧みに発掘し、編集し、そして、世に送り出す、最高のメディア・プロデューサーなのです。

「リソースがない」のではありません。

社内にある、膨大な“無料のリソース”に、まだ、あなたが気づいていないだけ。

その視点を持った時、あなたの仕事は、終わりのない“苦行”から、社内の仲間たちと共に、最高の作品を創り上げる、エキサイティングな“文化祭”へと、その姿を変えるはずです。