打ち手辞典

『働いている人の実感』を“生々しく”伝えるドキュメンタリー採用広報術

「『成長できます!』『風通しの良い社風です!』といった”かっこいいメッセージ”を語っても、学生の心には響いていない。彼らが本当に知りたいのは、そこで働く人たちの、もっと生々しい”実感”のはず。でも、それをどう見せればいいのか…」

採用広報が、企業の「言いたいこと(建前)」を伝えるステージから、候補者の「知りたいこと(本音)」を伝える、より高度なステージへと進んだ。その変化に気づいている、優れた採用担当者だからこそ抱く、本質的で、そして、極めて難しい悩み。

この問題の本質は、あなたが伝えたい「実感」が、社員の頭の中や、日々の行動の中にしか存在しない、あまりにも属人的で、言語化しにくい“空気”のようなものであるという、表現の難易度の高さにあります。

その“空気”を、無理やり言葉に押し込めることをやめ、採用担当者を「インタビュアー」から、社員の日常に密着する「ドキュメンタリー監督」へと進化させることで、“実感”そのものを、映像や物語として切り取るための、新しい時代の採用広報術をご提案します。


ステップ0:なぜ、あなたの“社員紹介”は、”実感”に欠けるのか?を診断しよう

良かれと思って作った社員紹介コンテンツが、なぜか、学生に「作られた感」を与えてしまう。その背景には、いくつかの典型的な失敗があります。

  • □ 「本音風」の台本型:
    インタビューで語られる言葉が、あまりに綺麗にまとまりすぎており、広報担当者が書いた”台本”を読んでいるかのように聞こえてしまう。
  • □ 成功体験・オンリー型:
    仕事のやりがいや、成功した話ばかりで、その裏にあるはずの、地道な作業、泥臭い失敗、人間的な葛藤といった、“実感”の源泉が、全く描かれていない。
  • □ 「感情」の抽象化型:
    「成長実感があります」「達成感がありました」といった、抽象的な“感情のラベル”は語られるが、どんな瞬間に、なぜ、そう感じたのかという、具体的なエピソードがない。
  • □ “仕事”のプロセス・不在型:
    笑顔でパソコンに向かう社員の静止画は見せるが、チームメンバーと、ああでもない、こうでもないと、白熱した議論を交わす動画のような、仕事のプロセスが見えてこない。
  • □ 広報の“フィルター”厚すぎ型:
    制作の最終段階で、広報部や上層部のチェックが入り、少しでもネガティブに聞こえる言葉や、人間味あふれる“ノイズ”が、全てカットされてしまっている。

これらは全て、“実感”を「綺麗な言葉」で説明しようとし、“実感”が生まれる「汚くて、美しい、リアルな現場」そのものを見せられていないことが原因です。


ステップ1:思想をアップデートする。「何を語るか」から「何を撮るか」へ

「最高の脚本家は、日常である」

この思想にアップデートします。採用担当者が、無理に物語を創作する必要はありません。あなたの会社の日常には、既に、どんな脚本家も敵わないほどの、リアルで、感動的な物語が、無数に転がっています。

「日常に隠された、最高の”実感”が生まれる瞬間を発見し、それを、最もリアルな形で、世界に届ける。」

あなたの仕事は、社員にマイクを向けることではありません。社員の日常に、そっと、カメラを向けることです。


ステップ2:“実感”を、言葉以上に雄弁に語る、具体的な打ち手

思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「建前」を「本音」で、そして、「説明」を「体験」で超える4つの打ち手をご紹介します。

1. 「会議、ちょい見せ」コンテンツ

難易度 コスト 期間 定期的
目的
“仕事のリアル”が凝縮された議論の場を見せる
具体策
・ブレスト会議や定例会をカメラで撮影(機密性低い範囲)。
・白熱議論や雑談を1〜3分動画にしてSNS/採用サイトで公開。
・「これが日常です」と等身大で発信。
主要KPI
・「リアル」「雰囲気が伝わる」などの共感コメント数
・候補者のカルチャーフィット自己判断率
・採用ミスマッチ低減

2. 「Slack実況中継」コンテンツ

難易度 コスト 期間 定期的
目的
テキスト上の”生”文化を切り取り伝える
具体策
・オープンSlackチャンネルのやり取りを許諾の上公開。
・称賛・助け合い・意外な一面をスクショで発信。
・「今日のハイライト」として採用担当者が実況。
主要KPI
・コミュニケーションスタイル理解度
・風通し/人間関係の可視化指標
・候補者の不安解消率

3. 「失敗からの学び」Vlogシリーズ

難易度 コスト 期間 3ヶ月~
目的
“失敗”を物語化し、挑戦文化を証明する
具体策
・社員が「今月の失敗と学び」をVlogでリレー投稿。
・上司/同僚によるフォローエピソードも追加。
・2分程度でスマホ自撮り形式。
主要KPI
・心理的安全性の証明度
・誠実さへの信頼感向上
・挑戦意欲ある人材の応募増加

4. 「What’s in my bag/desk?」コンテンツ

難易度 コスト 期間 定期的
目的
仕事道具から社員の価値観を覗く
具体策
・「仕事に欠かせないベスト3」を紹介依頼。
・キーボード、ノート、写真、お菓子などから人柄を深掘り。
・インタビュー形式で発信。
主要KPI
・社員個々の魅力伝達度
・多様な働き方の提示度
・エンゲージメント率

成功のための深掘り解説

打ち手1:「会議、ちょい見せ」コンテンツ

会議は、会社の“素顔”が、最も現れる場所です。厳しい意見が飛び交うのか、ユーモアが溢れるのか、データに基づいて冷静に議論するのか。編集されたインタビュー映像よりも、たった1分の、リアルな会議の断片の方が、その会社のカルチャーを、遥かに雄弁に物語ります。これは、学生に「この議論の輪の中に、自分は入れるだろうか?」と、問いかける、究極のシミュレーションです。

打ち手2:「Slack実況中継」コンテンツ

現代の仕事の多くは、チャットツールの上で行われます。そこでの、何気ない言葉遣い、絵文字の使い方、感謝や称賛の頻度。これら全てが、あなたの会社の、リアルな人間関係とカルチャーを映し出す鏡です。この“鏡”を、正直に見せてあげること。それが、学生の「入社後の人間関係は、大丈夫だろうか?」という、最も大きな不安を解消する、最高の処方箋となります。

打ち手3:「失敗からの学び」を語る、Vlogシリーズ

「挑戦できる環境です」と、100回言うよりも、一人の社員が、笑顔で「この前、大失敗しちゃって(笑)」と語る方が、遥かに、その文化を証明します。失敗を、隠すのではなく、むしろ「学びの機会」として、オープンに語れる。この“弱さを見せる強さ”こそが、心理的安全性を何よりも重視する、現代の優秀な学生の心を、強く惹きつけるのです。

打ち手4:「What’s in my bag/desk?」コンテンツ

これは、“モノ”をフックに、“コト(仕事観)”や“ヒト(人柄)”を、自然に引き出す、非常に巧みなコンテンツ手法です。「あなたの仕事のやりがいは?」と聞くと、人は建前を語ります。しかし、「なぜ、このノートを使っているんですか?」と聞くと、その人の仕事へのこだわりや、思考のプロセスといった、無防備な本音が、自然とこぼれ落ちてくるのです。

明日からできることリスト

  • 自社「社員紹介のリアリティチェック」
    社員紹介コンテンツを見直し、「成功体験ばかり/建前的かつ台本的か/汚さ・葛藤の欠如が目立たないか」をチームでチェックして分類。
  • ・「会議ちょい見せ」動画を1本作ってみる
    機密性の低い内部会議(ブレインストーミング等)を、1〜3分撮影。雑談や笑いなど自然な姿を切り取ってSNSに投稿して反応を見る。
  • ・Slackコミュニケーションを抽出して公開
    社内でSlack実況用のやり取り(称賛・アイデア共有など)をスクショとして取得し、社員の許可を得た上で「今日のハイライト」として投稿。
  • 失敗からの学びVlog企画をスタート
    若手社員などに「今月の失敗とそれによる学び」を2分の自撮りVlogで話してもらい、頻度を月1〜2回から始めてみる。
  • 「What’s in my desk?」企画案を作成
    数人の社員に、自分のデスク周辺の持ち物(ノート・工具・写真など)を紹介してもらうインタビュー案を作り、動画またはテキスト付きで発信する準備をする。
  • 社内レビュー許容ラインを設定
    「多少の違和感や誤字、口語表現でも良い」「完璧すぎない“リアル感”を残す」というチェックポイントを社内クリエイション工程に組み入れる。

「完璧なメッセージ」を語ることではなく、「不完全で、人間味あふれる、日常」を見せること

採用担当者は、会社の魅力を、美しくパッケージングする、広報担当者ではありません。

あなたは、社内に溢れる、名もなき、しかし、かけがえのない“実感”の瞬間を、誰よりも愛情のこもったレンズで切り取る、ドキュメンタリー監督なのです。

「かっこいいメッセージ」は、もう必要ありません。

学生が本当に見たいのは、あなたの会社の、少しだらしなくて、少し不器用で、しかし、最高に人間らしくて、愛おしい、“素顔”なのです。

その素顔を、自信と、誇りを持って、見せてあげること。

その先にこそ、上辺だけの共感ではない、魂のレベルで、あなたの会社を愛してくれる、未来の仲間との、本物の出会いが待っているのです。