Z世代と採用側の根底にあるギャップ

「今年も母集団形成に苦戦している…」
「手応えのあった学生から、あっさり内定辞退の連絡が来た…」
「面接で話す学生のエピソードが、どれも同じに見えてしまう…」

新卒採用の現場で、こんな悩みが年々深刻になっていないでしょうか。売り手市場が加速する中、従来の採用手法が通用しなくなり、頭を抱える担当者の方は少なくありません。

その根本原因は、私たちが持つ“採用の常識”と、Z世代と呼ばれる今の就活生たちの“仕事選びの常識”との間に生じている、致命的なまでの「ズレ」にあります。

この記事では、最新の就活市場のデータを基に、その「ズレ」の正体を解き明かし、これからの時代に選ばれる企業になるための新しい採用戦略のヒントを解説します。

【データで再確認】Z世代の“知られざる”企業選びの軸

まず、彼らが企業選びで何を重視しているか、その価値観の背景と共に見ていきましょう。

【就活生が企業を選ぶ基準】

  • 第1位:安定している会社
    • 注意点: 彼らの言う「安定」は、親世代が求めた「大企業だから安泰」ではありません。終身雇用が崩壊した時代に育った彼らにとっての安定とは、「社会で通用する専門性やスキルが身につき、個として生き抜く力が得られること」です。会社の看板よりも、個人の市場価値向上を重視しています。
  • 第2位:福利厚生が充実している
    • 背景: ワークライフバランスを重視し、プライベートの充実をキャリアの前提と考えています。特に、住宅手当や奨学金返済支援など、実生活に直結する制度への関心は非常に高い傾向にあります。
  • 第3位:希望する地域で働ける
    • 背景: 働き方の多様性が当たり前になった今、「転勤」は大きなリスクと捉えられています。自身のライフプランやコミュニティを大切にする価値観の表れです。

このデータから見えてくるのは、「会社への帰属」よりも「自分軸のキャリアと生活」を何よりも大切にするZ世代の姿です。この前提を理解しないままでは、どんなに自社の魅力を語っても彼らの心には響きません。

貴社の“当たり前”がミスマッチを生む。選考における3つの思考ギャップ

この価値観のズレは、選考プロセスにおいて具体的にどのようなミスマッチを生んでいるのでしょうか。

ギャップ①【ガクチカ・自己PR】:「何をしたか」を問い詰め、「なぜ、どうしたか」を見逃す

【採用担当者のよくある悩み】 「サークルやアルバイトの話ばかりで、学生の個性が見えない」

これは、多くの企業が結果(What)やエピソードのインパクトを評価しようとするあまり、学生も「すごい経験を話さなければ」と思い込んでいるのが一因です。

【視点の転換】 本当に知りたいのは、その学生の思考プロセスや人柄、つまり「再現性のある能力」のはずです。

  • 「なぜその課題に取り組もうと思ったのですか?」(目的意識・価値観)
  • 「反対する人はいませんでしたか?どう説得しましたか?」(対人能力・粘り強さ)
  • 「その経験で、あなた自身の考え方はどう変わりましたか?」(学習能力・成長性)

面接は「評価の場」から「対話を通じて個性を引き出す場」へ。Whatを深掘りする「なぜ?」「どうやって?」という問いかけが、学生の素顔を見抜く鍵となります。

ギャップ②【志望動機】:「熱意」を問いただし、「貢献意欲」を引き出せない

【採用担当者のよくある悩み】 「『理念に共感しました』という話ばかりで、本気度が伝わってこない」

これも、「弊社でなければならない理由は?」という抽象的な問いが、学生に「正解」を探させてしまっている結果かもしれません。

【視点の転換】 学生に「自分ごと」として未来を想像させることが重要です。

  • 「あなたの〇〇という強みは、当社の△△という事業で、具体的にどう活かせると考えますか?」
  • 「もし入社したら、3年後にどんなことで会社に貢献していたいですか?」

一方的に熱意を問うのではなく、学生のキャリアプランと自社の未来を接続するような問いかけをすることで、初めてリアルな貢献意欲やポテンシャルが見えてきます。

ギャップ③【内定承諾】:「条件」で惹きつけようとし、選考過程での「体験」の価値を見落とす

【採用担当者のよくある悩み】 「給与や待遇で他社に見劣りしないはずなのに、内定を辞退されてしまう」

学生が最終的に入社を決める理由は、条件だけではありません。むしろ、「選考過程で会った社員の印象が良かった」「ここで働く自分がリアルに想像できた」といった、情緒的な「体験価値」が最後の決め手になるケースが増えています。

【視点の転換】 採用プロセス全体を「自社の魅力を伝えるショーケース(RJP: Realistic Job Preview)」と捉え直しましょう。

  • 面接官は「会社の顔」:面接官のトレーニングを徹底し、学生の話に真摯に耳を傾け、対話する姿勢を示す。
  • リアルな情報提供:良い面だけでなく、仕事の厳しさや課題も正直に伝え、信頼関係を築く。
  • 社員との接点:評価の場ではない、若手や中堅社員とのカジュアルな座談会などを設け、リアルな社風を感じてもらう。

選考は、学生が企業を評価する場でもある。この当たり前の事実を、今一度認識する必要があります。

【シーン別】就活生と採用担当者の心の声ギャップ対比表

シーン テーマ 就活生の心の声 採用担当者の心の声
会社説明会・インターン 参加動機 とにかく参加してガクチカを作らなきゃ。いろんな業界を見ておきたいし、早期選考につながるといいな。 多くの学生に自社を知ってもらい、母集団を形成したい。できれば意欲の高い学生と早期に接点を持ちたい。
質問タイム 変な質問をして悪目立ちしたくない…。当たり障りのないことを聞いておこう。「社風はどうですか?」あたりが無難かな。 学生の思考の深さや個性が見える質問が欲しいな。「社風は?」のような抽象的な質問だと、また同じ説明になってしまう。
オンラインでの態度 カメラオフだし、他の作業をしながら聞いてもバレないよね。情報は欲しいけど、時間は有効活用したい。(タイパ重視) 画面の向こうで本当に聞いているのだろうか…。反応が見えないと、こちらの熱意も伝わりにくい。志望度が低い学生が多い印象だ。
エントリーシート(ES) 自己PR 自分の強みは「誠実さ」かな。派手な経験はないけど、真面目さをアピールしよう。これで大丈夫だろうか…。 「誠実さ」「協調性」は素晴らしいが、それだけだと判断が難しい。その強みを使ってどう行動し、成果を出せるのかが知りたい。
ガクチカ バイトリーダーで売上を10%上げた話が一番インパクトがあるはず。とにかく「すごい結果」を伝えなきゃ。 結果は立派だが、なぜそれに取り組んだのか?困難をどう乗り越えたのか?その【プロセス】から人柄や能力が見たいのに…。
志望動機 ホームページの企業理念が良さそうだから、それに共感したって書こう。「社会貢献」とか「成長できる環境」って書けば間違いないはず。 また「理念に共感」か…。どの会社にも言えることではなく、「なぜウチなのか」を、君自身の言葉で聞かせてほしい。
面接 ガクチカ深掘り なんでそんなに細かく聞くんだろう?結果は伝えたのに…。うまく答えられないと、嘘だと思われるかも…(不安) この学生は、プレッシャーがかかる状況でどう考え、行動するタイプだろうか。思考の再現性やストレス耐性を見極めたい。
弱み・挫折経験 「心配性なところです」みたいに、長所にも聞こえるように答えるのがセオリーだよな。本当に失敗した話は言いにくい。 きれいに取り繕った答えより、本当の失敗から何を学び、次どう活かしたのかが知りたい。完璧な人間なんていないのだから。
逆質問 給料や残業、福利厚生のことを聞きたいけど、がめついと思われたらどうしよう…。印象を下げたくないからやめておこう。 「特にありません」は一番残念な回答。本当に弊社に興味があるのかな?ここで意欲や情報収集力に差が出るのに。
内定・その後 内定承諾 やった、内定だ!でも、他にも受けているし、一番条件の良いところに行きたい。とりあえず承諾してキープしておこう。 内定を出せて一安心。ぜひ入社してほしいが、最近は辞退も多いから油断できない。これからどうフォローしていこうか。
内定辞退の連絡 正直に「第一志望の他社に決まりました」って言うしかないよな。面接官、いい人だったから申し訳ないけど…。 「他社に決まった」という理由は分かるが、本当の理由は何だったのだろう?給与か、社風か、それとも選考中の対応か…?真因を分析しないと次に活かせない。

Z世代は“未来のパートナー”。「対話」から始める新しい採用戦略を

「最近の若者は…」と嘆く時代は終わりました。彼らは変化の激しい時代を生き抜くための、合理的で現実的な価値観を持っているに過ぎません。

これからの採用活動で求められるのは、一方的に「見極める」姿勢ではなく、学生一人ひとりの価値観やキャリア観に寄り添い、「惹きつけ、共に未来を描く」というパートナーシップの視点です。

まずは、明日からできることから始めてみませんか。

  • 自社の面接の質問項目を、学生の「プロセス」や「未来」を引き出すものに見直してみる。
  • 現場の若手社員に、自社の「働きがい」や「リアルな魅力」についてヒアリングしてみる。

Z世代の価値観を理解し、尊重し、真摯に対話すること。それこそが、企業の未来を創る優秀な人材から「選ばれる」ための、唯一の道筋となるはずです。