打ち手辞典

『ダサい』と『作られた感』を突破する動画戦略

「YouTubeでVlog風の社員紹介動画を作ったら、『制作会社に頼んだ?金かけてるね』と学生に冷めた目で見られた。手作り感を出せば『ダサい』と言われ、プロに頼めば『作られた感』を指摘される。正解はどこに…。」

そのお悩みは、採用動画を「一本の完璧な作品」として捉えていることから生じます。しかし、現代の学生が求めるのは、完璧な映像美ではありません。それは、コンテンツの目的と表現方法が一致している「正直さ」です。

動画を「ストック(資産型)」と「フロー(消費型)」に分類し、それぞれの目的に合った最適な表現を見つけることで、「ダサい」と「作られた感」のジレンマを乗り越え、持続可能で効果的な動画戦略を構築することです。


ステップ0:まず、あなたの採用動画を診断しよう

学生に「なんか違う…」と思わせてしまう動画には、いくつかの共通点があります。ご自身の動画がどれに当てはまるか、チェックしてみてください。

  • □ 目的不明瞭・総花型:
    一本の動画に「事業説明」「企業文化」「社員の魅力」「福利厚生」など、全ての要素を詰め込もうとして、結局何も印象に残らない。
  • □ 過剰演出・ドラマ型:
    必要以上にスローモーションや感動的なBGMを使い、社員のセリフも台本通り。まるで企業のテレビCMのようで、リアルさが感じられない。
  • □ 内輪ウケ・専門用語型:
    社員同士の楽しそうな雰囲気は伝わるが、会話の内容が業界用語や社内スラングばかりで、部外者である学生が置いてきぼりになる。
  • □ 手ブレ・音割れ型:
    手作り感を意識するあまり、映像が極端に見づらかったり、音声が聞き取りづらかったりして、内容が頭に入る前に視聴者が離脱してしまう。
  • □ プラットフォーム無視型:
    YouTube用に作った10分間の横長動画を、そのままTikTokやInstagramのリールに投稿するなど、各SNSの文化や作法を無視している。

これらは全て、「誰に、何を伝えたくて、どの場所で流すのか」という戦略の欠如が原因です。


ステップ1:思想をアップデートする。「完璧な一本」から「最適なポートフォリオ」へ

全ての目的に応える「魔法の動画」は存在しません。会社の魅力を多面的に伝えるためには、目的別に複数の動画を使い分ける「コンテンツ・ポートフォリオ」という考え方が不可欠です。

【採用動画コンテンツ・ポートフォリオの4象限】

作り込み(世界観・信頼)切り出し(リアル・共感)
情報・事実① ストック型:コンセプト動画
・事業内容や企業理念を伝える映像美重視の動画。
・プロへの依頼も視野に。
② フロー型:解説・Q&A動画
・制度や事業の解説、学生からの質問への回答。
・ライブ配信やスマホでの一発撮り。
人柄・カルチャー③ ストック型:社員インタビュー
・特定の社員のキャリアや人柄を深く掘り下げる。
・丁寧な照明や音声で、落ち着いて見せる。
④ フロー型:日常Vlog・ショート動画
・社員のランチ、雑談風景、オフィスツアーなど。
・スマホ撮影、編集は最小限でOK。

→「作られた感」を指摘されたVlogは、本来④であるべき内容を①や③のクオリティで作ってしまったために、ミスマッチが生じたのです。逆に、①のコンセプト動画がスマホ撮影では「ダサい」と思われます。適材適所の使い分けこそが、ジレンマからの脱出路です。


ステップ2:「共感を呼ぶリアル」を生み出す具体的な打ち手

思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「ちょうどいい」バランスを実現する4つの打ち手をご紹介します。

1. 「ストック&フロー」動画制作体制の構築

難易度 コスト 低~高 期間 3~6ヶ月
目的
動画の目的とプラットフォームを最適化し、制作負荷を分散させる
具体策
・ストック動画(会社説明会やサイト掲載用):年に1,2本、予算をかけてプロに依頼、または社内の得意な人材で丁寧に制作。
・フロー動画(SNS投稿用):採用担当がスマホで週に数本撮影・編集。
主要KPI
・視聴維持率
・総再生時間
・動画経由の採用サイト流入数

2. 「スマホ前提」のショート動画量産

難易度 コスト 期間 即時~1ヶ月
目的
制作負荷を下げつつ、Z世代に最も響くリアルな魅力を伝える
具体策
・TikTokやリール、Shortsを主戦場とし、縦型・1分以内の動画を量産。
・「若手社員の一日」「オフィスのお気に入りスポット紹介」「出社ランチvlog」など、”盛らない”日常を切り取る。
・編集はスマホアプリ(CapCut等)で完結させる。
主要KPI
・エンゲージメント率(いいね、コメント、シェア)
・平均再生時間(秒)
・フォロワー増加数

3. 「社員の本音」を引き出す質問設計術

難易度 コスト 期間 撮影ごと
目的
「作られた感」の源泉である”台本”を排除し、自然な表情や言葉を引き出す
具体策
・インタビューで「やりがいは?」と聞く代わりに、「先月一番しびれた仕事の瞬間は?」「最近、思わず『よっしゃ!』と声に出た出来事は?」と、具体的なエピソードを問う。
・仕事以外の質問(休日の過ごし方、好きな漫画など)を挟み、素の表情を引き出す。
主要KPI
・コメント欄での「〇〇さんのファンになりました」という声
・動画のシェア数
・選考での「動画の〇〇さんの話が…」という言及数

4. 「ライブ配信」による究極のリアル提供

難易度 コスト 期間 1ヶ月~
目的
編集の効かない生放送で、企業の”素”を見せ、学生との距離を縮める
具体策
・InstagramやYouTubeのライブ機能を使い、社員との座談会やQ&Aセッションを定期的に開催。
・台本は作らず、その場で来る質問にNGなしで答えるスタンスを見せる。
・多少の沈黙やしどろもどろも「リアルさ」として見せる。
主要KPI
・ライブ配信の同時接続数と総視聴者数
・コメント/質問の投稿数
・ライブ後のアーカイブ再生数

成功のための深掘り解説

打ち手1:「ストック&フロー」動画制作体制の構築

全ての動画に100点を求めるから疲弊します。会社の顔となる「ストック動画」は、信頼性を担保するために、プロの力を借りるのも有効です。しかし、SNSで日々発信する「フロー動画」は、むしろプロっぽさが邪魔になります。この2種類を明確に区別し、力を入れる場所と抜く場所を意識するだけで、運用は驚くほど楽になり、学生からの見え方も自然になります。

打ち手2:「スマホ前提」のショート動画量産

TikTokやリールにおいて「ダサい」とは、「その場の文化に合っていない(=テレビ的、広告的すぎる)」という意味合いが強いです。スマホで撮影され、テンポの良い音楽とテロップで編集されたラフな動画こそが、これらのプラットフォームにおける「正解」です。過度な作り込みは不要。むしろ、少しの手ブレや、社員の素の笑い声が、最高のスパイスになります。

打ち手3:「社員の本音」を引き出す質問設計術

「作られた感」は、社員の「用意された模範解答」から生まれます。これを崩すのが、具体的なエピソード記憶を呼び覚ます質問です。「やりがい」という抽象的な問いは、建前を引き出します。「入社3年目の壁にぶつかった時、どうやって乗り越えましたか?」という具体的な問いは、その人だけが持つリアルなストーリーを引き出します。このストーリーこそが、学生の心を動かすのです。

打ち手4:「ライブ配信」による究極のリアル提供

「作られた感」を払拭する最強の手段がライブ配信です。編集が一切できないため、社員の言葉遣い、不意の質問への対応、社員同士の目線のやり取りなど、企業の「素の表情」が否応なく映し出されます。もちろん失敗のリスクはありますが、それを恐れずに実施する企業姿勢そのものが、学生にとっては「正直で、風通しが良さそうだ」という強力なメッセージになります。

明日からできることリスト

  • ・社員の日常ショート動画を1本スマホで撮って投稿してみる
  • ・採用動画の目的別リストを作り、「ストック/フロー」の分類をしてみる
  • ・社員へのインタビューで、「最近感じたやりがい」を質問してみる
  • ・ライブ配信のテーマ案を1つ練ってみる(例:社員×カジュアル対談)

「完璧な映像美」ではなく、「正直さが伝わる空気感」

採用動画における「正解」は、プロとアマチュアの中間の、どこか一点にあるわけではありません。

それは、伝えたいメッセージと、発信する場所に応じて、無数の正解を使い分けるという戦略の中にあります。

会社の理念を語る動画は、映画のように美しく。

社員の日常を語る動画は、友人のスマホからのビデオ通話のように、親しく。

一本の動画で全てを伝えようとせず、様々な動画の組み合わせで、会社の「正直な空気感」を伝えること。

それこそが、「ダサい」と「作られた感」のジレンマを乗り越え、学生の信頼を勝ち取る唯一の道です。