『コピペされた共感』を見抜く“原体験”深掘り術
「『御社のパーパスに共感しました』。その言葉を聞くたびに、心がざわつく。面接対策用のセリフだと頭では分かっていても、万に一つの本心を信じたい自分がいる。この茶番劇に、意味はあるのだろうか…」
学生が演じる「理想の候補者」と、採用担当者が演じる「見抜ける面接官」。お互いが本音を探り合いながら、建前で塗り固められた言葉を交わす。そのやり取りの虚しさと、そこから生まれる徒労感。
この問題の本質は、「パーパスへの共感」という、本来であれば極めて個人的で、血の通ったものであるはずの感情が、就職活動というゲームの中で、誰でも使える攻略用の「キーワード」へと成り下がってしまったことにあります。
その形骸化した言葉の応酬から脱却し、学生の「共感」という言葉を入り口に、その人自身の人生の物語(原体験)へと深くダイブすることで、このやり取りを「茶番」から「魂の対話」へと蘇らせるための、具体的な打ち手をご提案します。
ステップ0:まず、なぜあなたの面接は”茶番”になってしまうのか?を診断しよう
学生との間で「パーパス共感ごっこ」が繰り広げられてしまう背景には、面接の設計そのものに潜む問題があります。
- □ 「共感」の魔力・依存型:
企業側も「パーパス」を魔法の言葉のように扱い、「共感」という言葉が出れば、それ以上深く掘り下げることなく、満足してしまっている。 - □ 抽象 対 抽象の会話型:
「なぜ共感したのですか?」という抽象的な問いに、学生が「社会貢献性の高さに…」という抽象的な答えを返し、具体的なエピソードが一切出てこない。 - □ 「べき論」の押し付け型:
面接官の態度や質問の仕方から、「パーパスに共感しているべき」という無言の圧力がかかっており、学生に「はい、共感しています」と言わせる空気を自ら作ってしまっている。 - □ 原体験・未探索型:
そもそも、面接の質問がガクチカなどの「成果」の確認に終始し、その人の価値観が形成された「原体験(人生の重要な出来事)」を探るような問いが設計されていない。 - □ 信じたい願望・優先型:
採用担当者自身が、「うちのパーパスは素晴らしいものだから、学生はきっと共感してくれるはずだ」と信じたい気持ちが強く、あえてその言葉の真偽を問うような、踏み込んだ質問を避けている。
これらは全て、「言葉」そのものを評価対象としてしまい、その言葉が生まれるに至った「背景(コンテクスト)」を見ていないことが原因です。
ステップ1:思想をアップデートする。「言葉」の真偽を問うのをやめる
学生の「共感しました」という言葉に対し、「本当か?嘘か?」という視点で向き合うのをやめましょう。それは不毛な心理戦にしかなりません。
代わりに、「あなたの人生と、私たちのパーパスは、どこで、どのように繋がっているのですか?」という、「接続(ブリッジング)」の視点に立ちます。
【ブリッジング思考】
- 企業のパーパス(抽象) ← (この橋を架けるのが面接官の仕事) → 学生の原体験(具体)
この橋を架けるための質問を設計すること。それが、茶番を本物の対話に変える唯一の方法です。面接官は、学生の人生という物語と、会社の未来という物語を繋ぐ、編集者なのです。
ステップ2:言葉の裏にある“その人らしさ”を暴き出す具体的な打ち手
思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「虚無感」を「手応え」に変える4つの深層質問術をご紹介します。
1. 「パーパス翻訳」質問法
・「もし、就職活動をしていない友人に、うちの会社のパーパスを説明するとしたら、どんな風に話しますか?」
・思考の具体性と論理性
・評価コメントの質の向上
2. 「原体験接続」質問法
・「その価値観は、いつ、どんな出来事がきっかけで、あなたの中に生まれたのだと思いますか?」
・パーパス共感の信憑性
・カルチャーフィットの見極め精度向上
3. 「行動仮説」質問法
・「入社後、パーパスと違うと感じる慣習があったら、あなたならどうしますか?」
・ストレス耐性や誠実さの見極め
・入社後の活躍ポテンシャルの予測精度向上
4. 「逆説(パラドックス)」質問法
・「このパーパスを追求しすぎることで、どんなリスクや副作用が生まれる可能性があると思いますか?」
・自己客観視能力
・”イエスマン”ではない、建設的な批判精神の見極め
成功のための深掘り解説
打ち手1:「パーパス翻訳」質問法
これは、「記憶力」と「理解力」を切り分けるための、シンプルで強力な質問です。暗記した言葉はそのまましか話せませんが、本当に理解していることは、自分の言葉で、様々な角度から説明できるはずです。この質問に詰まるようであれば、その学生の「共感」は、まだ入り口に立ったばかりだと判断できます。
打ち手2:「原体験接続」質問法
これが、今回の打ち手の核心です。人の価値観は、必ず何らかの個人的な体験(原体験)に根差しています。「パーパスに共感しました」という言葉が本物であれば、その学生の人生のどこかに、必ずその源流となる物語があるはずです。それが、部活動での経験かもしれませんし、家族との会話かもしれません。この個人的な物語と、会社の公的な物語が接続された時、初めて「共感」は本物になります。
打ち手3:「行動仮説」質問法
「共感」は、心地よい状態ですが、それだけではビジネスになりません。重要なのは、その共感が、困難な状況下での「行動」に結びつくかどうかです。この仮説質問は、学生を「評論家」の立場から、「当事者」の立場へと引き込みます。ここで示される思考のプロセスや葛藤にこそ、その人の価値観の強度が表れます。
打ち手4:「逆説(パラドックス)」質問法
これは、思考が深く、成熟した候補者を見抜くための上級テクニックです。物事を盲信するのではなく、その光と影を両方見つめ、批判的に思考できる人材は、組織に新しい視点をもたらし、イノベーションを促進します。あえてパーパスの“穴”を問うことで、学生の知的誠実さと、物事を多角的に捉える視座の高さを測ることができます。この問いに優れた回答ができる学生は、間違いなく逸材です。
明日からできることリスト
- ・面接で「パーパスに共感しました」と言われたら、必ず次に「その共感をあなたの言葉で説明してもらえますか?」と質問する文を用意してみる
- ・自社のパーパス文言を社員用に簡単に言い換えてもらう資料を作成し、面接官間で共有する
- ・面接準備のチェックリストに「原体験への掘り下げ質問を1問必ず入れる」を追加する
- ・面接官同士で1名分の模擬面接をやり、その共感部分を「暗記か本物か」を見極めるトレーニングを実施する
- ・次の採用振り返り会議で、「共感の深さがどうだったか」「どの質問で本質的な話が聞き出せたか」を議題に入れる
「共感の確認」ではなく、「共感の理由の発見」
採用担当者は、学生が口にする「共感しました」という言葉の真偽を暴く、冷たい尋問者ではありません。
その言葉を出発点として、学生の人生という未知の大陸を探検し、会社の未来と繋がる宝(原体験)を共に発見する、信頼できるパートナーです。
「御社のパーパスに共感しました」
その言葉は、もうあなたを苛む虚しい響きではありません。
それは、「さあ、ここから、私の物語を深掘りしてください」という、学生からの最高の開始の合図なのです。
その招待状を手に、意味のないやり取りを、あなたの力で、かけがえのない意味のある対話へと変えていってください。