『知ってもらう仕掛け』を創る“アテンション・デザイン”
「『知られていない』のが全ての根源だとは分かっている。問題は、その”知ってもらう”ための、最初の”仕掛け”をどう作ればいいのか。ここに、悩みの大半がある。」
採用活動という名の広大な海原で、ただ闇雲に釣り糸を垂れるのではなく、魚(学生)が思わず食いついてしまう、最高の“撒き餌”や“ルアー(疑似餌)”をどう開発するか。その、極めて創造的で、しかし、正解のない問い。それこそが、採用担当者の腕の見せ所であり、最も頭を悩ませる部分です。
この問題の本質は、学生という「情報に飽和した、極めて用心深い魚」に対して、企業側が「また広告か」と見透かされる、ありきたりの“撒き餌”しか用意できていないという、アプローチの陳腐化にあります。
その退屈な“撒き餌”を、学生が思わず「なんだ、あれは!?」と振り向いてしまう、ユニークで、価値ある“ルアー”へと進化させるための、新しい時代の「アテンション・デザイン(注意の設計)術」をご提案します。
ステップ0:なぜ、あなたの会社の”前”を、学生は素通りするのか?を診断しよう
あなたの会社が発信する情報が、学生の注意(アテンション)を一切引かない。その背景には、いくつかの共通した”退屈さ”の原因があります。
- □ メッセージ平凡型:
発信するメッセージが、「当社は成長しています」「挑戦できる環境です」といった、どこかで聞いたことのある、ありきたりな言葉に終始している。 - □ 待ち伏せ一点張り型:
学生が「就活モード」になっている、求人ナビサイトや合同説明会といった、”戦場”でしか、学生との接点を持とうとしていない。 - □ 価値提供・後回し型:
まず自分たちの話を聞いてもらうこと(Take)を優先し、学生にとって有益な情報を提供する(Give)という視点が欠けている。 - □ 人間味・不在型:
会社という無機質な「組織」として語っており、そこで働く「個人」の、人間味あふれる物語や、感情が見えてこない。 - □ 物語・未発見型:
自社の中に、実は眠っているはずの、ユニークで、面白い「物語の原石」を、発掘し、磨き上げる努力を怠っている。
これらは全て、学生を「広告の受け手」としてしか見ておらず、「面白いコンテンツの読者/視聴者」として見ていないことが原因です。
ステップ1:思想をアップデートする。「広告」から「事件」へ。学生の日常に、どう割り込むか
学生の日常は、大学の講義、SNSのタイムライン、YouTubeのおすすめ動画といった、無数の情報で埋め尽くされています。その中に割り込むためには、広告であってはなりません。それは、一つの小さな「事件」あるいは「発見」である必要があります。
【アテンション・デザインの4つのフック】
- 好奇心(Curiosity): 「え、何それ?」と思わせる、知的な驚き。
- 価値提供(Value): 「これは、役に立つ!」と思わせる、純粋な学び。
- 人間味(Humanity): 「この人、面白いな」と思わせる、個人的な共感。
- 参加体験(Participation): 「自分もやってみたい!」と思わせる、当事者意識。
あなたの仕事は、これらのフックを巧妙に組み合わせた「仕掛け」を、企画・実行する、“仕掛け人”になることです。
ステップ2:“素通り”を“二度見”に変える、具体的な「仕掛け」
思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「無関心」を「なんだこれ!?」に変える4つの打ち手をご紹介します。
1. 【好奇心をフックにする仕掛け】
データ・ドリブン・プロボケーション
・例:「就活生の9割が誤解している〇〇業界の真実」「1万人のESを分析して分かった、面接官が本当に見ているポイント」
・SNSやプレスリリースで発信
・メディアからの取材依頼
・専門性・権威性の確立
2. 【価値提供をフックにする仕掛け】
”神”レベルの、お役立ち資料配布
・例:「ポートフォリオ作成チートシート」「研究概要の最強テンプレート」
・メール登録と引き換えに無料配布
・獲得リードの数と質
・感謝の声
3. 【人間味をフックにする仕掛け】
”普通じゃない”社員の、物語
・その人のストーリーを記事や動画に
・例:「元プロミュージシャンが営業エースに」「世界レベルのゲーマーが語る仕事と趣味の共通点」
・カジュアル面談希望の増加
・多様性・懐の深さのPR
4. 【参加体験をフックにする仕掛け】
超・低ハードルなコンテスト
・例:「#うちの会社のキャッチコピー考えてみた」「サービス改善案を140字で」
・優秀投稿者には「社員との雑談権」などを提供
・ハッシュタグのトレンド化
・アクティブ学生の発掘
成功のための深掘り解説
打ち手1:データ・ドリブン・プロボケーション
情報が溢れる現代において、オリジナルの「データ」と「インサイト(洞察)」は、最も価値のあるコンテンツです。「〇〇だと思います」という主観ではなく、「データによると、〇〇という事実が判明しました」という客観的な事実は、シェアされやすく、メディアも取り上げやすくなります。これは、あなたの会社を、単なる一企業から、業界のトレンドを分析・発信する「シンクタンク」へと昇格させる、知的な仕掛けです。
打ち手2:“神”レベルの、お役立ち資料配布
これは、学生の「就活、面倒くさいな、楽したいな」という、普遍的な本音に、最高の形で応える仕掛けです。圧倒的に質の高い「GIVE」を提供することで、学生は、あなたを「採用してくる会社」ではなく、「自分の就活を助けてくれる、恩人」だと認識します。この心理的な”貸し”は、その後の選考プロセスにおいて、絶大な効果を発揮します。
打ち手3:“普通じゃない”社員の、物語
あなたの会社の一番の資産は、そのユニークな「社員」です。彼らの波乱万丈な人生の物語は、どんな事業説明よりも、学生の心を惹きつけます。「こんな面白い人がいる会社なら、きっと退屈しないだろう」という期待感は、論理を超えた、感情的な志望動機へと繋がります。あなたの仕事は、その社内に眠る“スター”を発掘し、プロデュースすることです。
打ち手4:超・低ハードルなコンテスト
「説明会に来てください」「応募してください」という、企業からの高い要求に、学生はうんざりしています。そうではなく、「ちょっと、このお祭りに参加してみない?」と、気軽で、楽しく、そして、自分の力を試せる“遊び場”を提供するのです。この遊びに夢中になる中で、学生は、自然とあなたの会社の事業内容を学び、ファンになっていきます。
明日からできることリスト
- ・自社の「素通り原因」タイプを診断する
- ステップ0のチェック項目(平凡メッセージ型/人間味不在型など)を使って、自社の課題ポイントを現場で診断・共有する。
- ・「データ・ドリブン・プロボケーション」のネタを探す
- 自社のユニークな統計や業界の誤解を紐解くデータなどを洗い出し、短いリサーチレポート案を作成してみる。
- ・「神レベルのお役立ち資料」案を作る
- 例えば「ポートフォリオ作成テンプレート」「質問準備チェックリスト」など、学生が「欲しい!」と思う内容の資料案を一つ考え、制作計画を立てる。
- ・社員インタビューコンテンツ企画を一つ立案する
- 趣味や変わった経歴を持つ社員を一人選び、その人の”物語”をインタビュー形式で収録し、SNSやサイトで発信するプランを作成。
- ・超・低ハードルなSNSコンテストを企画
- 例:「#〇〇社のキャッチコピー募集」や「サービス改善案一言チャレンジ」など、気軽に参加できる企画案を社内で検討・草案作成。
「社名を覚えてもらう」ことではなく、「何か面白いことをやっている、“何者か”として、記憶に残る」こと
採用担当者は、自社の名前を連呼する、広告担当者ではありません。
あなたは、学生の退屈な日常に、知的で、刺激的で、人間味あふれる「事件」を仕掛ける、最高の“仕掛け人”なのです。
「知られていない」という現実は、変えられます。
今日、この瞬間から、「どうすれば、学生の心を、一瞬でもジャックできるか?」という、クリエイティブな問いを、自分自身に投げかけること。
その問いの先にこそ、あなたの会社が、ただ“知られる”だけでなく、多くの若者から”愛される”未来が待っているのです。