打ち手辞典

『リソース不足』でも勝てる“リーン”採用広報術

「採用広報を強化したいが、予算も人員も限られている。『あれもこれも』なんて、とても無理だ…。」

最高のレシピ(伝えたい魅力)は頭の中にあるのに、使える食材も調理器具も(予算も人員も)ほとんどない。大手企業が豪華な食材でフルコースを提供するのを横目に、自分は今あるもので、どうすれば最高の逸品を生み出せるのか。

この問題の本質は、あなたの会社の「リソース不足」という事実そのものではなく、採用広報を「お金をかければ、できることが増える」という、足し算の発想でしか捉えられていないという、戦略の不在にあります。

この辞典は、その「ないものねだり」の思考から脱却し、「お金がないからこそ、知恵を絞る」という、引き算と掛け算の発想で、最小の資源で、最大の効果を生み出すための、新しい時代の“リーン”採用広報術をご提案します。


ステップ0:なぜ、あなたの“採用広報”は、すぐ”金欠”になるのか?を診断しよう

限られた予算が、効果的な成果に結びつかない。その背景には、リソース配分における、いくつかの典型的な失敗パターンがあります。

  • □ 大手模倣・高コスト型:
    潤沢な予算を持つ大手企業の、華やかな動画制作や、大規模な広告出稿を、無理に真似しようとして、一瞬で予算を溶かしてしまっている。
  • □ チャネル無差別・消耗型:
    X(旧Twitter)、Instagram、Facebook、YouTube、note…と、流行りのチャネル全てに手を出そうとし、結果、全ての運用が中途半端になり、疲弊している。
  • □ コンテンツ”使い捨て”型:
    説明会で一度使った資料や、イベントで撮影した動画を、他の用途に再利用・再編集することなく、”使い捨て”にしている。
  • □ 「外部委託」丸投げ型:
    本来であれば、社内の人間が語るからこそ価値が出る「社員の想い」や「企業文化」といったコンテンツの制作を、高価な外部業者に丸投げしてしまっている。
  • □ ”社員”という最強資産・未活用型:
    採用広報を、採用担当者一人の仕事だと抱え込み、社内にいる、最高のコンテンツホルダーであり、広報塔であるはずの「社員」を、全く巻き込めていない。

これらは全て、自社が持つ「最も価値があり、かつ、最も安価な資源」に気づかず、外部の「高価な資源」に依存しようとしていることが原因です。


ステップ1:思想をアップデートする。「金がないから、何もできない」から「金がないから、知恵を絞る」へ

採用広報における、最も価値があり、かつ、最も安価な資源。それは、「社員」です。

彼らの頭の中にある「専門知識」と、心の中にある「物語(ストーリー)」。この二つこそが、どんな高価な広告よりも、学生の心を動かす、最高のコンテンツです。

「社員とその物語の、投資対効果を最大化せよ」

あなたの仕事は、新しい予算を獲得することではありません。社内に眠る、この“無料の資産”を、いかにして発掘し、磨き上げ、世に送り出すかを考える、最高の編集者になることです。


ステップ2:“リソース不足”を“クリエイティビティ”で乗り越える具体的な打ち手

思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「お金がない」を「面白いことができる」に変える4つの打ち手をご紹介します。

1. 「社員ブログ」のリレー連載

難易度 コスト 期間 3ヶ月~
目的
”社員”という資産を活用し、低コストで大量のリアルなコンテンツを生み出す
具体策
・無料ブログプラットフォームで公式アカウントを作成
・毎週担当を決め、社員がテーマ別にリレー形式で執筆
・採用担当者は編集長としてテーマ提供と校正に徹する
主要KPI
・継続的な記事数
・記事ごとのエンゲージメント率
・社員の当事者意識向上

2. 「一つのコンテンツ」を使い倒す、”ワンソース・マルチユース”戦略

難易度 コスト 期間 即時
目的
複数チャネルに展開し、ROIを最大化する
具体策
・1時間のロングインタビューを実施
・【活用①】フル動画をYouTube公開
・【活用②】音声をPodcast化
・【活用③】文字起こしを記事化
・【活用④】ショート動画でSNS拡散
・【活用⑤】印象的な言葉を画像コンテンツ化
主要KPI
・派生コンテンツ数
・制作工数の削減
・情報接触機会の増加

3. 「プレスリリース配信サービス」の戦略的活用

難易度 コスト 低~中(配信料) 期間 定期的
目的
広告費ゼロで、メディアの信頼性を借りて認知を高める
具体策
・PR TIMESなどの低価格配信サービスを活用
・新製品や業績だけでなく、ユニークな社内制度や調査結果を発信
・社会性・新規性のある情報を提供
主要KPI
・メディア掲載回数と広告換算費
・記事経由の採用サイト流入数
・企業の信頼性向上

4. 「社内」を、最大の広報チャネルにする

難易度 コスト 期間 常時
目的
全社員を広報担当に変え、拡散力を高める
具体策
・社内チャットに「#採用広報_応援団」を作成
・新コンテンツ公開時に共有し、SNS拡散を依頼
・紹介文のパターンを提供し、シェアしやすくする
主要KPI
・社員の協力によるシェア数
・リファラル採用の増加
・全社的な協力文化の醸成

成功のための深掘り解説

打ち手1:「社員ブログ」のリレー連載

これは、採用担当者が一人でコンテンツを書き続ける、という地獄から解放されるための、最高の仕組みです。あなたの仕事は、“書き手”であることではなく、社内にいる、無数の素晴らしい“書き手”を発掘し、彼らが気持ちよく書ける“舞台”を整える、編集長になることです。社員の数だけ、物語はあります。その資産を活用しない手はありません。

打ち手2:「一つのコンテンツ」を使い倒す、“ワンソース・マルチユース”戦略

これは、「貧乏暇なし」から脱却するための、リーンなコンテンツ生産術です。一つの「原石(ロングインタビュー)」から、様々な形(動画、音声、テキスト、画像)の「宝石」を切り出す。この発想を持つだけで、あなたのコンテンツ制作の効率と、成果は、劇的に向上します。限られたリソースだからこそ、一つのコンテンツに込めた熱量を、骨の髄まで、しゃぶり尽くすのです。

打ち手3:「プレスリリース配信サービス」の戦略的活用

お金を払って広告枠を買うのではなく、あなたの会社の「面白さ」を、ニュースとして、メディアに“無料”で取り上げてもらう。これが、広報の醍醐味です。重要なのは、“企業目線の宣伝”ではなく、“メディア目線のニュース”を、企画・情報提供すること。「私たちの会社、こんなに面白い取り組みを始めたんですけど、記事にしませんか?」と、テレビ局にネタを売り込む、敏腕プロデューサーになるのです。

打ち手4:「社内」を、最大の広報チャネルにする

あなたの会社の情報を、最も熱意を持って、そして、最も信頼性高く、語ることができるのは、そこで働く全社員です。彼らの個人的なSNSアカウントは、合計すれば、会社の公式アカウントを遥かに凌ぐ、強力な拡散力を持っています。その“休眠資産”を、簡単な「お願い」と「仕組み」で、呼び覚ますこと。これが、コストゼロで、エンゲージメントの高い情報を、世に広めるための、最も賢い方法です。

明日からできることリスト

  • ・タイプ診断を社内で実施する
    ステップ0のチェックリスト(「大手模倣・高コスト型」「チャネル無差別型」など)を実際にチェックして、自社の傾向を共有する。
  • ・社員を“コンテンツ発信者”としてリストアップする
    社内に発信に前向きな社員を探し、「社員ブログ」連載の候補者リストを3名程度作る。テーマ案も併せて考える。
  • ・ロングインタビュー企画の草案を作成する
    1時間程度のロングインタビューを1件想定し、その素材を動画・音声・記事・画像に再利用する“マルチユース戦略”のスクリプト案を作ってみる。
  • ・プレスリリースのネタ一覧を整理する
    社内独自の制度・調査・取り組みなど、メディア露出に使えそうなネタのアイデアを5件程度付箋に書き出し、プレス配信の仮タイトルを考えてみる。
  • ・社内共有チャネル「#採用広報応援団」を立ち上げる準備をする
    チャットの新チャンネル案と、そこで社員にどんな投稿依頼/文言テンプレートを提供すれば拡散しやすいかの雛形を準備。
  • ・クリエイティブマインドを刺激する小ワークを設定する
    「お金をかけずに注目される採用広報アイデアを1分で考えてみよう」など、チームミーティングで短くワークショップを行う案を立案する。

「潤沢な予算」ではなく、「無限の知恵」

採用担当者は、予算のなさを嘆く、一人の社員ではありません。

あなたは、与えられた制約という名の”お題”に対し、最高のクリエイティビティで応える、アイデアと工夫のプロフェッショナルなのです。

「リソース不足」は、思考停止の言い訳にはなりません。

むしろ、それは、小手先の施策や、惰性の活動を全て削ぎ落とし、「本当に価値のある、本質的な活動は何か?」という、最も重要な問いに、私たちを向き合わせてくれる、最高の“師匠”です。

お金がないからこそ、生まれるアイデアがある。

人がいないからこそ、生まれるチームワークがある。

その逆境を、誰よりも楽しみ、乗りこなした先にこそ、あなたの会社だけの、そして、あなただけの、ユニークで、力強い採用広報の形が、見えてくるはずです。