『応募は来るのに、欲しい人がいない』という“空振り”をなくすターゲティング術
「エントリーはたくさん集まる。でも、そのほとんどが、私たちが本当に欲しい層ではない。干し草の山から、たった一本の針を探すような、この徒労感…」
まるで、巨大な網を投げて、たくさんの小魚はかかるけれど、本当に狙っていた一匹の大きな魚は、いつも網の目をすり抜けていってしまう漁師のよう。その、忙しいだけで成果に繋がらない、非効率な採用活動。
この問題の本質は、あなたの会社の魅力がないのではなく、その魅力の“伝え方”が、あまりにも大衆向けで、薄味になってしまっていることにあります。その結果、誰にでもそこそこ響くが、誰の心にも深くは突き刺さらないという、最も非効率な状況が生まれているのです。
その「広く、浅い」母集団形成から脱却し、採用担当者を「網を投げる漁師」から、獲物を狙い撃つ「スナイパー」へと進化させるための、新しい時代の“超”ターゲティング術をご提案します。
ステップ0:なぜ、あなたの“網”には、“雑魚”ばかりかかってしまうのか?を診断しよう
応募の「量」はあっても「質」が伴わない。その背景には、採用マーケティングにおける、いくつかの典型的な失敗があります。
- □ ペルソナ不在・誰でも歓迎型:
「求める人物像:コミュニケーション能力があり、主体的な方」といった、どの企業にも当てはまる、具体性のない言葉で募集している。 - □ 「量」を追うKPI・設定型:
採用担当者の評価指標が、「応募者数」や「エントリー数」になっており、質よりも量を追い求める行動が、無意識に助長されている。 - □ 魅力の”平均化”・無個性型:
自社の尖った魅力や、人を選ぶであろうカルチャーを隠し、「安定性」「社風の良さ」といった、最大公約数的な、当たり障りのない魅力ばかりを語っている。 - □ チャネル選択・思考停止型:
どんな職種の募集でも、判で押したように、大手ナビサイトといった、マス向けのチャネルにしか頼っていない。 - □ 選考プロセスの”フィルター“不全型:
書類選考や一次面接が、候補者を絞り込むための”フィルター”として機能しておらず、意欲の低い学生や、明らかにフィットしない学生を、次のステップに進ませてしまっている。
これらは全て、「合わない人には、来てもらわない」という、勇気ある“お断り”のメッセージが、不足していることが原因です。
ステップ1:思想をアップデートする。「誰でも」から「あなただけ」へ。メッセージを”研ぎ澄ます”
採用広報とは、最高の仲間を見つけるための「サーチライト」であると同時に、合わない人を、お互いのために遠ざけるための「防虫灯」でもあります。
「誰にでも向けたメッセージは、誰にも届かない」
あなたの仕事は、万人ウケする、当たり障りのない言葉を探すことではありません。むしろ、「こういう人は、うちには絶対合わない」という、排他的なメッセージを、あえて発信する。その勇気が、結果として、本当にフィットする人材だけを、強力に引き寄せるのです。
ステップ2:“数打ちゃ当たる”から“狙い撃ち”へと進化する、具体的な打ち手
思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「応募者の山」を「精鋭部隊」に変える4つの打ち手をご紹介します。
1. 「採用ペルソナ」の、徹底的な解像度向上
・全ての施策を「この施策はペルソナの〇〇さんに響くか?」で判断する運用に統一。
・応募総数の健全な減少
・採用メッセージの一貫性/鋭さの向上
2. 「ジョブ・ディスクリプション」を”挑戦状”に変える
・「当社にフィットしない方」の項目を明記し、セルフスクリーニングを促進。
・応募者の質の向上
・採用ミスマッチの低減
3. 「ニッチなチャネル」への、集中投資
・マス広告の比重を下げ、特定ニッチに濃いメッセージを集中的に配信。
・採用単価(CPA)の最適化
・チャネル面での差別化達成
4. 「選考プロセス」そのものを、”フィルター”として機能させる
・例:営業職=「当社サービスをA社へ提案する1枚企画書」を提出。
・課題突破者のみ次ステップへ進め、議論の質を高める。
・面接の質向上(課題起点の具体的議論)
・低質面接に費やす工数の削減
💡 成功のための深掘り解説
打ち手1:「採用ペルソナ」の、徹底的な解像度向上
これが、全てのターゲティング戦略の“羅針盤”です。「明るく元気な人」といった、ぼんやりした人物像では、誰にもメッセージは届きません。「〇〇という価値観を持ち、△△という情報源を信頼し、□□というキャリアの悩みを抱えている、佐藤さん(22歳)」というように、たった一人の顔が見えるレベルまで具体化すること。その“佐藤さん”に向けて書いたラブレターだけが、同じような価値観を持つ、他の学生の心にも、深く突き刺さるのです。
打ち手2:「ジョブ・ディスクリプション」を“挑戦状”に変える
多くの求人票は、退屈な「業務内容の説明書」です。そうではなく、優秀な人材の“挑戦心”を焚きつける、熱い「挑戦状」へと、その役割を書き換えましょう。「誰でもできる仕事」ではなく、「あなたのような、特別な人にしかできない、困難なミッション」を提示すること。そして、「楽な仕事を探しているなら、他を当たってくれ」という毅然とした態度は、逆に、本物の挑戦者を惹きつけます。
打ち手3:「ニッチなチャネル」への、集中投資
限られた弾薬(予算)を、巨大な戦場で、闇雲に乱射してはいけません。敵(競合)が少なく、獲物(ターゲット)が密集している、最も勝率の高い戦場を見つけ出し、そこに全ての戦力を集中投下する。これが、弱者の戦略の基本です。あなたの会社のペルソナが、大手ナビサイトではなく、GitHubや、特定の学会にいるのであれば、そこにこそ、あなたの未来のエースがいるのです。
打ち手4:「選考プロセス」そのものを、“フィルター”として機能させる
意欲の低い学生や、合わない学生に、貴重な面接時間を費やすのは、双方にとって不幸です。選考プロセスの早い段階で、少しだけ高い“ハードル”を設けること。そのハードルを、面倒くさがらず、むしろ楽しんで越えてくる学生こそが、あなたの会社が本当に求めるべき、エンゲージメントの高い人材です。これは、採用担当者の“目利き”という属人的なスキルを、“仕組み”で補強する、極めて有効な手法です。
明日からできることリスト
- ・自社の診断タイプを社内でチェックする
- ステップ0の診断チェック項目を使って、自社がどのタイプに近いかを採用チームで議論してみる。
- ・ハイパフォーマー分析によるペルソナ設計の草案を作る
- 既存社員で成果を出している人を数名選び、その人たちのキャリア観・情報収集チャネル・学生時代の活動などをヒアリングし、ペルソナ案を1つ作成する。
- ・次の募集要項を「挑戦状型ジョブ記述」に書き換える案を一つ作ってみる
- 募集票の冒頭部分を、「このミッションが〇〇社であなたを待っている」のような挑戦的な言葉に改変してみる草案を用意する。
- ・ニッチチャネルの候補を3つリストアップする
- ターゲットペルソナがよく見るコミュニティ/ブログ/オンラインフォーラム/学会などをリサーチし、応募者の“質”が期待できるチャネルを3つ選定して、そこへの投資案を考える。
- ・選考プロセスに実務課題を導入するプランを設計する
- 書類選考後または一次面接前に小課題を設定する案をひとつ考え、その内容・時間・評価基準などを草案としてまとめておく。
「応募者の数」ではなく、「未来のハイパフォーマーとの出会いの確率」
採用担当者は、応募者の数を集める、単純な作業員ではありません。
あなたは、自社の未来にとって、本当に必要な、たった一人の逸材を見つけ出すために、あらゆる知恵と戦略を駆使する、スナイパーなのです。
応募者の山に埋もれ、徒労感に苛まれる日々は、もう終わりにしましょう。
あえて、嫌われる勇気を持つこと。あえて、門を狭くすること。
その先にこそ、応募者の数は減っても、会う人、会う人、誰もが魅力的で、採用したいと思えるような、エキサイティングで、質の高い採用活動が待っているのです。