『稼働しないOB・OG訪問』を“予約殺到”の人気サービスに変えるUX改善術
「良かれと思って、OB・OG訪問の社内制度を立ち上げた。でも、学生からは『話したい人が見つからない』と言われ、社員からは『一向に声がかからない』と言われる。マッチングが全く機能せず、稼働率が低すぎる…」
鳴り物入りでオープンした、高級な会員制ラウンジ(OB・OG訪問制度)。しかし、新規のお客様(学生)は、どの会員(社員)と話せば良いか分からず、会員もまた、ただ待っているだけ。ラウンジは、いつも閑散としている。
この問題の本質は、制度という「ハコ」を作っただけで、その中身である「最高の出会いを演出する」という、最も重要な“サービス”の視点が、完全に抜け落ちていることにあります。
その“幽霊ラウンジ”と化した制度に、再び命を吹き込み、採用担当者を「制度の管理人」から、学生と社員の最高の出会いを仲介する「コンシェルジュ」へと進化させるための、新しい時代のUX(ユーザー体験)改善術をご提案します。
ステップ0:なぜ、あなたの“ラウンジ”は、いつも“閑散”としているのか?を診断しよう
良かれと思って作った仕組みが、なぜ、誰にも使われないのか。その背景には、いくつかの典型的な設計上の失敗があります。
- □ 検索性・劣悪型:
学生が、OB・OGを、大学名や部署名といった、大雑把な括りでしか検索できない。自身のキャリアの悩みや、興味関心に合致した先輩を、ピンポイントで探せない。 - □ 「誰」だか不明・魅力半減型:
登録されている社員のプロフィールが、「〇〇部 △△(名前)」といった、無機質な情報だけ。その人が、どんな人柄で、どんな経験を持ち、何を語れるのかが、全く見えない。 - □ マッチング丸投げ・お祈り型:
システムが提供するのは、社員のリストだけ。学生が、勇気を出して、誰かにアポイントの連絡を入れ、返信が来るのをひたすら”祈る”しかない、学生任せの設計になっている。 - □ 社員へのインセンティブ・皆無型:
協力してくれる社員に対して、感謝の言葉以外、何のメリットも、評価上の手当てもない。多忙な業務の中で、OB・OG訪問に対応する動機が、純粋な”善意”しかない。 - □ 宣伝不足・存在自体が空気型:
そもそも、このOB・OG訪問制度の存在自体が、学生に十分に知られていない。最高のサービスも、知られなければ、存在しないのと同じ。
これらは全て、制度を「作る」ことに満足し、「使ってもらう」ための、徹底的なユーザー視点が欠けていることが原因です。
ステップ1:思想をアップデートする。「制度」から「サービス」へ。利用者(学生・社員)視点で再設計する
「OB・OG訪問制度」という、固い名前を、今日から捨てましょう。
私たちが提供するのは、「未来のあなたに出会う、キャリア・コンシェルジュ・サービス」です。
その中で採用担当者の仕事は、制度を管理することではありません。利用者(学生、社員)の体験(UX)を、最高のものにデザインし、コミュニティ全体の満足度を最大化することです。
ステップ2:“閑散ラウンジ”を“予約殺到の人気サービス”へと変える、具体的な打ち手
思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「使われない」を「使いたい」に変える4つの打ち手をご紹介します。
1. 社員プロフィールの「メディア化」と、検索性の向上
・「#〇〇大学出身」「#海外赴任経験」「#AI研究」など検索可能タグを付与。
・学生の満足度
・プロフィール閲覧数(PV)
2. 「コンシェルジュ」による、能動的なマッチング仲介
・担当者がコンシェルジュとして適切な社員を推薦・仲介。
・「〇〇様のご興味なら△△さんが最適」と案内。
・学生の満足度・安心感
・担当者の介在価値の発揮
3. 社員側の「メリット」と「評価」を、明確に制度化する
・学生からの感謝の声を社内報で共有し称賛。
・正当なメリットを提示し継続意欲を醸成。
・採用活動への当事者意識
・依頼レスポンススピード
4. 「テーマ別・OB/OG座談会」の企画
・学生は匿名・顔出しなし質問可で参加ハードルを下げる。
・複数学生と同時接点を確保。
・社員一人あたり接触効率
・潜在層の掘り起こし
成功のための深掘り解説
打ち手1:社員プロフィールの「メディア化」と、検索性の向上
社員のプロフィールページは、一人の人間という、最高のコンテンツを売り込むための「雑誌の記事」です。無機質な経歴の羅列ではなく、その人の人柄、価値観、失敗談といった、人間的な魅力が伝わるように、採用担当者が編集長として、魅力的にプロデュースするのです。そして、ハッシュタグによる検索性の向上は、学生が、広大な人名録の中から、運命の一人を見つけ出すための、最高のナビゲーションとなります。
打ち手2:「コンシェルジュ」による、能動的なマッチング仲介
最高のホテルに、最高のコンシェルジュがいるように、最高の採用体験にも、最高のコンシェルジュが必要です。学生の漠然とした「知りたい」というニーズを、プロとして的確に汲み取り、「それでしたら、この者が最適です」と、最高の出会いをお見立てしてあげる。この“おもてなし”の精神に溢れた、人間的な介入が、単なるマッチングアプリとの、決定的な差を生み出します。
打ち手3:社員側の「メリット」と「評価」を、明確に制度化する
社員の”善意”は、有限です。その貴重な善意に、会社として、制度で報いること。これは、社員に対する、当然の敬意であり、責任です。「採用への協力は、会社にとって、そして、あなた自身の評価にとって、重要な仕事です」というメッセージを、明確な制度として示すことで、社員は、安心して、そして、誇りを持って、未来の後輩たちのために、時間を使うことができるのです。
打ち手4:「テーマ別・OB/OG座談会」の企画
いきなり、社員と1対1で話すのは、多くの学生にとって、心理的なハードルが高いものです。まずは、匿名で、顔出しなしで、気軽に質問できる、多人数の座談会に参加してもらう。この“浅瀬”の体験で、会社の雰囲気や、社員の人柄に触れてもらい、もっと深く知りたくなった学生だけが、その先の1対1という“深み”へと進んでいく。この段階的な設計が、より多くの学生を、OB・OG訪問の世界へと誘います。
明日からできることリスト
- ・自社制度のタイプ診断をチームで共有する
- ステップ0の診断項目(「検索性・劣悪型」「誰だか不明型」「マッチング丸投げ型」など)を使って、自社のOB・OG訪問制度がどのタイプに近いかを洗い出し、その結果を採用チームで共有。
- ・社員プロフィールの改修案を作る
- 現行のOB/OG訪問用社員プロフィールを見直し、「顔写真・失敗談・キャリア転機・休日の過ごし方」など人柄が見える要素を1人分用意する仮サンプルを編集してみる。
- ・学生に「興味分野」を聞くフォームを作る
- OB・OG訪問申し込み時に、学生側に「興味分野」や「相談したいテーマ」を選べる項目を付けて、その情報をもとに担当者がマッチングする推薦案を作成。
- ・テーマ別座談会を企画する
- 「先輩女性エンジニアのキャリア」「東京大学出身者座談会」「異業種転職希望者向け」など、テーマを1つ設定してオンライン座談会を企画。まずは案内・案をチームでまとめる。
- ・社員インセンティブ案を整理する
- OB・OG訪問対応に関して、社内報での称賛・謝礼・評価ポイントなど、社員にとってメリットとなるアイデアを3〜5案出し、上司または人事に提案できる草案を作る。
- ・宣伝・存在周知を強化する
- 学生対象のメール/案内/SNSで「OB・OG訪問サービス」の存在を知らせるキャンペーン案を立てる。たとえば「先輩と話すチャンスを増やそう!OB・OG訪問受付中」の告知を次回募集時に入れるなど。
「完璧な制度」を作ることではなく、「最高の出会いを、演出し続ける」こと
採用担当者は、一度作ったら終わりの、システム管理者ではありません。
あなたは、学生と社員、双方の満足度を、常にモニタリングし、最高の出会いが生まれるよう、絶えず改善を続ける、コミュニティのプロデューサーなのです。
「稼働率が低い」という現実は、失敗ではありません。
それは、「もっと、私たち(学生・社員)が使いやすいように、改善してください」という、利用者からの、貴重で、愛情あるフィードバックなのです。
その声に、真摯に耳を傾け、サービスを磨き続けること。
その先にこそ、あなたのラウンジが、未来の仲間たちの、活気と、笑顔と、そして、最高の出会いで満たされる日が、必ず待っているのです。