打ち手辞典

『閑散とした座談会』の悪夢を防ぐ“予約殺到”イベントプロデュース術

「オンライン座談会を開催したが、参加者が数名しか集まらなかった。社員にも協力してもらったのに、この閑散とした画面では、逆に”人気のなさ”を露呈するだけで、ただただ気まずい…」

鳴り物入りで企画した、お誕生日パーティー。主役(社員)も、豪華なケーキ(コンテンツ)も用意したのに、招待客(学生)が、ほとんど誰も来てくれなかった。その、空回りした努力と、協力してくれた社員への申し訳なさ、そして、会社の魅力を否定されたかのような深い挫折感。

この問題の本質は、あなたの会社に人気がないのではなく、数多のオンラインイベントが乱立する現代において、あなたの座談会が、学生の貴重な時間を投資するに値する「特別な価値」を持っていると、伝えきれていないという、純粋なマーケティングの課題です。

その「閑散とした座談会」という悪夢を、「予約殺到の人気イベント」へと転換させるための、採用担当者を「司会者」から「イベントプロデューサー」へと進化させる、新しい時代のイベント設計術をご提案します。


ステップ0:なぜ、あなたの“パーティー”は、いつも“閑散”としているのか?を診断しよう

学生が「参加する」ボタンを押すのをためらう座談会には、いくつかの共通した”魅力の欠如”があります。

  • □ 価値提案・不在型:
    イベントのタイトルが、ただの「若手社員とのオンライン座談会」となっており、参加することで、学生にどんなメリットがあるのか、全く伝わらない。
  • □ 告知不足・単発型:
    開催日の数日前に、ナビサイトで一度告知しただけなど、学生の目に触れる機会を、十分に創出できていない。
  • □ ターゲット不在・総花型:
    「誰でも歓迎」のスタンスで、テーマが曖昧なため、どの学生にとっても「自分には関係ないや」と、スルーされてしまう。
  • □ 「誰」に会えるか不明型:
    「若手社員が登壇します」としか書かれておらず、その社員が、どんな経歴で、どんな人柄で、どんな面白い話をしてくれるのか、全く見えてこない。
  • □ 参加の心理的ハードル型:
    「座談会」という名の通り、何か質問したり、発言したりしないといけない、というプレッシャーを感じさせ、人見知りな学生を躊躇させている。

これらは全て、イベントを「一つの商品」として捉え、その商品を「マーケティングする」という、基本的な視点が欠けていることが原因です。


ステップ1:思想をアップデートする。「開催」から「集客」へ。思考の順番を逆にする

「最高のコンテンツは、最高の集客戦略があって、初めて意味を持つ」

この、イベントプロデュースの鉄則に立ち返ります。まず、考えるべきは、「どうすれば、このイベントは”満席”になるか?」です。

【新しいイベント企画の思考法】

  1. WHO: 誰に、このイベントに来てほしいのか?(ターゲットの先鋭化)
  2. WHY: その人は、なぜ、他の予定をキャンセルしてまで、このイベントに来るべきなのか?(価値提案)
  3. HOW: どうすれば、その価値が、ターゲットに、最も魅力的に伝わるか?(告知・プロモーション)
  4. WHAT: そして、その価値を提供するために、具体的にどんな内容のイベントにすべきか?(コンテンツ)

この「WHO→WHY→HOW→WHAT」という、集客から逆算する思考法が、あなたのイベントを成功へと導きます。


ステップ2:“閑散”を”満席”に変える、具体的なプロデュース術

思想のアップデートが完了したら、いよいよ具体的な戦術です。「人気のなさ」を「予約の取れない人気イベント」に変える4つの打ち手をご紹介します。

1. 「テーマ」を極限まで絞り込む

難易度 コスト 期間 次回の企画から
目的
“誰でも参加”から“あなたのため”の特別イベントへ
具体策
・「若手社員座談会」をやめ、具体かつ挑発的なテーマに。
・例:「入社3年目のリアル:理想と現実の乗り越え方」「文系出身がITでエースになるまで」「失敗談、全部話します」。
主要KPI
・申込率
・SNSでの言及・拡散
・参加者の質

2. 登壇社員を“スター化”して集客の核に

難易度 コスト 期間 次回の告知から
目的
“会社”ではなく“面白い個人”に会いたい動機を創る
具体策
・映画のキャストのように魅力紹介(経歴/趣味/ぶっちゃけテーマ)。
・写真付きで小出しに発信し、「〇〇さんに直接質問できる!」を訴求。
主要KPI
・「〇〇さんの話を聞きたい」理由の増加
・期待感の醸成指標
・協力社員のモチベーション

3. 最低催行人数で希少性と健全な中止を担保

難易度 コスト 期間 次回の企画から
目的
“人気なし”露呈リスクを企画段階でヘッジ
具体策
・申込が所定人数未満なら延期/中止と明記。
・同時に上限定員を設け希少性を演出。
・中止時は前向きメッセージで再調整。
主要KPI
・採算ラインの確保
・ブランド毀損回避
・担当者の心理的負担軽減

4. 「少人数 × 複数」座談会へ切り替え

難易度 コスト 期間 次回の企画から
目的
“大規模で閑散”を“少人数で濃密”へ転換
具体策
・一度に50人集客をやめ、10人限定を月5回などに分割。
・5人でも“超・少人数で深い対話”という価値に言い換え。
主要KPI
・発言機会/満足度の向上
・相互理解の深化
・ドタキャン率低下・参加者の質向上

成功のための深掘り解説

打ち手1:「テーマ」を、極限まで、そして、魅力的に絞り込む

「誰にでも」というメッセージは、誰にも届きません。「失敗談」「文系IT転職」といった、具体的で、少し“生々しい”テーマにこそ、学生は「これは、自分のための話だ」と、強烈な当事者意識を持ちます。万人ウケを狙うのではなく、たった一人の、しかし、最も来てほしい学生の心に、ナイフのように鋭く突き刺さるテーマを、考え抜くのです。

打ち手2:「登壇社員」を“スター化”し、集客の核に据える

学生が会いたいのは、無個性な「〇〇社の社員」ではありません。「〇〇という、面白い物語を持つ、△△さん」なのです。登壇する社員を、最高の魅力を持つ“スター”として、事前にプロデュースし、その人となりを、SNSなどを通じて発信する。この“推し活”のような演出が、「この人に会いたい」という、抗いがたい引力を生み出します。

打ち手3:「最低催行人数」を設け、“希少性”と“健全な中止”を担保する

これは、採用担当者の“心”と、会社の“ブランド”を守るための、プロのリスク管理術です。「誰も来なかったらどうしよう…」という不安を、企画段階で解消し、万が一の際には、“失敗”ではなく“戦略的撤退”として、堂々と中止・延期できる。この余裕が、あなたの企画を、より大胆で、挑戦的なものへと進化させます。

打ち手4:「1対多」ではなく、「少人数 x 複数」の座談会に切り替える

大規模イベントは、一見、効率的に見えますが、その実、多くの学生は「その他大勢」として、受け身の視聴者になるしかありません。規模を小さく、回数を多くする。この転換は、一人ひとりの学生と、深く、人間的な関係を築くという、座談会の本質的な目的を、最も効果的に達成するための、賢明な選択です。

明日からできることリスト

  • ・過去の座談会を振り返って診断してみる
    • ステップ0 のチェック項目を使って、自社で直近にやった座談会に当てはまる問題点を洗い出す(例:テーマがあいまい/登壇者魅力が伝わっていない/申込後告知が弱いなど)。
  • ・次の座談会テーマ案を3つ考える
    • 「入社3年目のリアル」「失敗から学ぶ○○」「文系でもIT挑戦できるキャリア」など、具体性と共感を誘う挑発的なテーマを3案作ってみる。
  • ・登壇社員の“ストーリー素材”を準備する
    • 登壇予定の社員に「なぜその社員がこのテーマで話せるか」を示す経歴+趣味+ぶっちゃけエピソードなどをヒアリングし、写真付きプロフィール素材を作成。SNSで予告投稿できるように準備。
  • ・少人数 × 複数回形式の座談会を企画する
    • 次回大規模形式ではなく、10人×複数回など少人数制で複数回開催する案を立て、どのテーマで何回やるか、日程案をつくる。
  • ・最低催行人数と上限設定を明示する案を用意する
    • 告知ページに「定員10名」「最低催行人数3名」などを記載する案を草案として作成。申し込みが少ない場合の対応(延期 or 再告知)をフローにしておく。
  • ・告知戦略を強化するためのチャネル拡大を図る
    • SNS/メーリングリスト/学生団体/大学キャリアセンターなど、告知経路をいくつかリストアップし、それぞれに案内文を用意して次回イベントで使う。

「誰でも入れる、大きな公民館」ではなく、「予約の取れない、小さな人気店」

採用担当者は、ただ場所と時間を用意する、会場の管理人ではありません。

あなたは、最高のキャスト(社員)と、最高の脚本(テーマ)を用意し、その魅力を、世に知らしめ、劇場を満席にする、最高のプロデューサーなのです。

「参加者が少ない」という現実は、あなたの会社の魅力がないからではありません。

その魅力を、最高の“エンターテイメント体験”として、まだあなたが、プロデュースしきれていないだけ。

その才能を、今こそ、解き放つ時です。

あなたの手で、閑散としたその舞台を、未来の仲間たちの熱気と興奮で、満員御礼にしてみませんか?